ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　竹松梅と同じ顔をした老婆は懇々と説教を続けていた。
　一応は先祖と名乗る老婆の顔を立て、梅は無言の正座で話を聞いている。もっともその顔は白けていたが。
「訳の分からんことばかり言うとらんできちんと正しいことを言え。そんでもっと周りの人に尊敬されるようになるんや。ええな？」
　ひとしきり説教を言い終えた先祖の隙を見計らい、梅が口を開いた。
「――ほいであんた、棺桶に片足突っ込んどるようなモンにそんなこと言うてなんとするん？」
　悠然と湯飲みで緑茶を飲む梅に先祖は首を横に振る。
「まだ三十年あるから言っとる」
「そんなん分からへんやろ。そっちには予定表でもあるんか？」
　言葉に詰まった先祖はしぶしぶ梅に耳打ち。
「……他の人に言ったらあかんぞ？　あるんじゃ、予定表」
「ほぅか」
　寿命が関わる話となればフツウはうろたえるはずなのに。梅は少しも動じない。
「ならわたいもあんたの父親として言いたいことがあるわ」
　さらりと告げられ言葉に先祖の動きが止まる。
「お、お父ちゃん？」
「せやで、父親やで」
　面食らう先祖に梅は続ける。
「わたいが死んだら過去に戻って生まれ変わって、あんたがわたいの子供として生まれてくるんや。わたいの子供なんやでもっと大きく構えとらなあかんで。昔からあんたは細かいこと気にし過ぎやわ」
　梅からの説教に先祖は唖然と口を開けっ放しにした。
「それお父ちゃんにもよう言われてた……」
「せや、これから先の過去の話や。やからよう聞き」
　言って梅は先祖へ説教を続けようとした。
　それより先に先祖は慌てて精霊馬に手を伸ばし、変化した駿馬に飛びついて叱られた子供の顔で逃げて行く。
「……あれ、帰ってしもたわ。わたいの先祖やのに根性ないやっちゃなあ」
　梅は呆れたようにため息をつき、どっこらしょと雲の上に腰掛ける。ふわふわとした雲はいいクッションで、持ち帰りができればと思わせるほどだ。
　先ほどの老婆が自分の先祖であると、梅はきちんと理解していた。最近不可思議なことが起こり続けているから、恐らくそれが関係しているのだろうとも。
　先祖は梅の言動の奔放さに不安を感じ、説教しに来たのかもしれない。そう薄々感じたが、梅は自分の言動を改めるつもりはなかった。
「子孫を見張るよりもっとちゃうことしたらええのに。そいでもそれが面白かったんやろなあ」
　面白いならしゃあない、梅は呟く。
「巡り巡ってわたいはあんたやで。全部自分のことやと思たらかわいいモンやろ。そうしたら腹も立たへんやろに、なあ？」
　言って梅は後ろを見た。そこにいるのはとても懐かしい姿の故人。
「ええ機会やし、ゆっくり話そうや。あんたの好きな茶菓子もあるで」
　そう言って梅は柔らかい笑みを浮かべていた。

■　　□　　■

　―― 一方その頃。
　一足早くあの世へと戻った梅の先祖の様子は妙だった。気づいた茶飲み友達が声をかければ、彼女はおかしなことを言う。
「さっきお父ちゃんと会ったんじゃ。子孫に生まれ変わっとった……！」
「えっ。そんなことあるの！」
「思わず逃げちまったし合わせる顔がないよぉ……」
「来年謝りに行く……？」
　しょげていた老婆はしばらく考え、小さく頷いた。
「……そうするよぉ」

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あとがき

担当マスター：はと
ファンレターはマスターページから！

皆様、おはこんばんちはでございます。はとです。

先祖と子孫の楽しいダメだしタイム、いかがでしょうか？
どの先祖も子孫の皆さんとおしゃべりできて、とても嬉しがっていることでしょう。
あの世で先祖のこの人とあの人、友達だろうなー、とか思いつつ楽しく書かせていただきました！

また機会があれば、よろしくお願いいたします！

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