ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　坂上直は静かに自分と同じ顔をした少女を見た。
　袴姿の彼女は驚くほど自分と似ている。一卵性の双子だと言えば、直の家族構成を知らない人達は信じるだろう。
　じっと直に見つめられた少女は、そわそわしたように身を捩った。
「……じっと目の奥を覗き込むの、止めない？」
「すみません。自分の先祖と話すという体験をしたのは初めてだったので、つい」
「そうよね、私も子孫と話すのは初めて。……どうしよう、私きちんとお説教できるかしら」
　頑張れ私、と深呼吸を繰り返す先祖に、直は何とも言えない微妙な視線を向ける。この頼りない自分と同じ顔をした少女に説教されるのか、と思えば複雑にもなるだろう。
「ええとね、もっと他の人とお話ししなさいな。関わらないと相手のことがわからないし、自分のことをわかってももらえないわ。ほら、そういうの言葉のドッジボールって言うんでしょう？」
「一般的にはキャッチボールと言います」
　先祖の説教が始まった途端に子孫から訂正が飛ぶ。
　ご先祖様は何故か現代用語に理解があったが、付け焼刃なのか時々用途がおかしい。
　しかし先祖の指摘は最もだと直は思う。高校へ進学してから新たに親しい友達は出来ていない。個性的な者が多いこの寝子高では、自分から動かないと埋もれるだけなのではなかろうか。
「……とりあえずクラスあたりから頑張ってみるかしら。それとも、部活動でもやってみたほうがいいのかしら」
　思案する直の声が聞こえたのか、先祖は嬉しそうな顔で頷く。そして何やら思いついたのか手を打った。
「いっそイメチェンしてみたらどう？　女の子なんだしオシャレしなくっちゃ。この夏ってシースルーやレースの透け感のある服がいいんでしょう？　あなたも身長あるし、シルエット強調した服とか似合うと思うのよ。軽いお化粧もしましょ、ね？」
　きらきらとした目で語る先祖に、直は訝しげな視線を向けた。
「……あなたがしたがっていたようにも聞こえますが」
　ぴた、と先祖の動きが止まる。
「……私、あなたのご先祖様なの。容姿は全部そっくりそのままなの」
　長い長い沈黙の後、先祖はそう平坦な声で言った。彼女は涙目で続ける。
「大正時代の女学生の平均身長って知ってる……？」
「……ご苦労をされたようですね」
　いくら容姿がそっくりであろうとも、取り巻く環境は違っていた。現代ではやや高めで済む直の身長も大正時代からすればものすごく高身長だ。
「オシャレして！　それが少なくとも私にとっては供養だから！」
「……善処します」
　ぼかした直の言葉に先祖は嬉しそうに笑う。

　――そこでパチリと目が覚めた。
「……なんでご先祖様の方が今のファッション用語とか詳しいのかしら。しかもそっちは言葉違いなかったし」
　雑誌を買って勉強した方がいいのか。話についていけないとコミュニケーションも難しくなる。善処すると返した以上、ご先祖様（？）にダメだしされない程度には努力しなければ。
「しかし、妙にリアリティのある夢よね。まだ時間はあるし、寝ておかないと授業に差し支えるわ」
　はふ。と可愛らしいあくびをひとつ。直はもぞもぞとタオルケットの中に潜り込んだ。