ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

「ど、どど、ドッペルゲンガー！？」
　リンゴ・スタージンガーは尻餅をついたまま、ずるずると目の前の人物から距離を取った。
「わ、私は……どうなってしまうのでしょう……」
　ドッペルゲンガーを見た者は数日内に死ぬ、という都市伝説がある。リンゴもそれを信じているわけではないものの、実際にもう一人の自分を見てしまっては脅えてしまう。無理はないだろう。
　おろおろとするリンゴを見下ろして、彼のドッペルゲンガーはやれやれと肩を竦めた。
「僕は君のご先祖様だから似ているのは当たり前だ。ドッペルゲンガーではないよ」
「ご先祖様……？　しかし、それにしてはお若いような？」
　首を捻るリンゴに先祖は胸を張る。
「そりゃあ若い時の姿で来たのだからね。格好がつかないじゃないか。それより僕は君に説教をしに来たんだ。落ち着いて聞いてくれ」
　美意識へ拘りがある先祖は長い指をチッチッと振って見せた。
「君は顔立ちはこの通り、僕に似て整っているんだから被り物を外してもっと女性と語り合え。まるで見ていられないよ！」
　大仰な身振り手振りで嘆く先祖にリンゴは笑顔で答える。
「女性と語らう？　でしたら、幾度となくありますよ」
「ほ、本当か！？　あの世からはチェック漏れがあっただけなのか。よかった、相手はどんな女性なんだい？」
　食い付く先祖にリンゴは笑顔のまま、
「はい！　年上の……お婆様方に囲まれて、縁側でお茶を……どうされました？」
　見れば雲に腰掛けた先祖は顎の下で手を組み、重々しいため息をついていた。
「……嘆かわしい。名の知れた色男である僕の子孫がこんなベジタリアンボーイだなんて……」
「それはもしや、草食系男子というやつですか？　こちらの最新事情も抑えていたとは」
「今はそんな事はいいんだよ！」
　一喝し、先祖はあれこれ子孫に女性の素晴らしさについてアピール。リンゴは笑顔で頷くものの、先祖の情熱が通じているかどうかはわからない。
「疲れた……。僕は行くよ。野菜を渡してくれ。ほら、野菜に割り箸刺した置物があっただろう？」
　リンゴは周囲を見回し、無残に壊れた精霊馬を発見する。
「Oh！　初めに驚いて倒れ込んだ際に潰してしまったのかもしれません！」
「What！？　デートに遅れるじゃないか！」
　顔色を変える先祖にリンゴは慌てて方法を考える。
「代わり、代わりは……！　ここのお供え物の林檎をお借りします！」
　リンゴは一緒に見つけたナイフで林檎を器用に剥くと、可愛らしい兎型の林檎を作って見せた。
「できました、送迎用の兎です！　お乗りください！」
「兎！？　……これしかないんだろう！　しっかり励めよベジボーイ！」
「Well……私に出来る限りは、なるべく。お気をつけて！」
　子孫の力強い言葉に先祖は安心したのか、兎に飛び乗った。即兎が動き出す。
「Wow！？　跳ねっ……Stop！　Stooooop！」
　先祖は兎を止めようとするが暴れ兎はお構いナシに雲の上を跳ね回りあの世へ直行。先祖の悲鳴はどんどん遠くなる。
「の、乗り物酔いは景色を見ると治まるらしいですよー！」
　もちろん先祖の返事はなかった。