ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　この不思議な空間で目覚めた時枝香苗は普段通り冷静のようだが、しかしその実心穏やかではない。その主な原因は香苗の隣、彼女とそっくりな少女だ。
「はーい、カナっち！　ご先祖様ダヨー？」
　いくらなんでも軽すぎだろう。
「カナっちストップウォッチ止めてこっち見てよー。いつもそんな感じ？　ねえ止めようよー？」
　言われ、香苗は無意識にストップウォッチを見ていたと気づく。確かに止めた方がいいかもしれない。
「わかりました、善処します」
　あっさりと行動を改める香苗に先祖は少しばかりムッとしたようだ。面白くなさそうに口をへの字に曲げる。
「……なんかむかつく。カナっち妹達みたいにイイコにしすぎー」
「そんなことを言われても困ります」
　香苗は言い返すものの先祖は動じていない。どころかとっくにその話題に興味を失い次の話題に移る。
「カナっちは姉妹仲いい？　姉妹とは仲良くよ。私は不仲すぎて困ったことになったのー」
「言われなくても仲良くします」
　思わず鼻白んだ香苗はにべなく言い返すが、にこにこ笑ったまま不仲と言った先祖に違和感を覚える。困って後悔したのなら、どうして笑っているのだろうか。
「……参考までにお聞きしますが、どうして不仲になったんです？」
「なんでだろ？　妹達は「姉さんといると酷い目に遭う」ってすぐに逃げちゃうのよねー。私の妹繊細すぎると思わない？」
「一体何したんですか貴方！？」
「聞きたい？」
「結構です！」
　即答した香苗の危機察知能力は優秀だった。そしてこの場から離脱すべきだと本能が訴えている。
「すみません、明日早いので失礼します」
　大嘘だったがこれ以上先祖に関わったら自分が危ない。
　焦る香苗は無意識にストップウォッチに指をかけていた。そのままカチリと時間を計ってしまう。
　ろっこん【Chronograph】が発動し、香苗を除くすべての時間の流れが変わる。先祖が香苗を呼び止めようとしたが、それより先に香苗は全力ダッシュで逃げ出した。
　が、目の前で先祖が目を輝かせているのは何故だろう。
「……逃げられない、ですと……？」
　愕然と香苗は呻く。確実に逃げられたはずなのに、この先祖途中でワープでもしたのだろうか。
「ふふふ、先祖を甘く見ちゃ駄目よー？　で、さっきのなにー？」
　ずずいっと迫られた香苗の背に冷や汗が流れた。
　何故だろうか、このまま先祖の好き勝手に根掘り葉掘り聞き出されてしまえば、先祖姉妹と同じように何らかの被害者になるような気がする。
「知りませんってば！」
　すぐ傍にあった茄子の精霊馬を手に取ると、香苗は先祖目掛けて投げつける。
　変化した牝牛は先祖の襟首をはむはむ食みつづ彼女をあの世へと強制送還。先祖は最後の最後まで「ねえあれ何ー！？」とろっこんに食い付きまくりだった。
「ふー。……しかしなんだったのでしょう、あれ」
　先祖をあれ呼ばわりする香苗だが、少しも申し訳ないとは思っていない。あれは生粋のトラブルメーカーだ。しかも関わったら自分の身が危うくなるタイプの。……無邪気な分だけタチが悪い。
　香苗はため息混じりにストップウォッチに目を落とし、先祖の指摘を思い出して頭を悩ませるのだった。