ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

Sweet！

　清楚なメイド服姿の最上るるかと瓜二つの少女は、スカートの裾を摘んで一礼する。
「初めまして。わたくしの名はスカーレット。あなたの先祖です」
「えっ、アナタがあたしのご先祖様？　凄い、そっくり！」
　るるかは手を打ち、面白そうに口の端を上げる。
「聞いたことある。あたしのご先祖様はイーストエンド出のメイドだけど玉の輿で伯爵夫人の座をゲットしたんだって」
「そんな風に伝わっていましたの」
　恥らい頬を染める先祖にるるかは言う。
「嵐が丘のような大恋愛だったのね。で、嵐が丘って何？」
　マイペースなるるかに先祖は呆れたようにため息をついた。
「るるか、いけませんよ。思ったことをすぐ口に出しては。……よい機会です。あなたには少々お説教をしなければ」
「え～、お説教～？　うざったーい」
　唇を尖らせたるるかに先祖はごほんと咳払い。話を聞け、と目配せをする。
「いいですか？　あなたには押しが足りません。だから本命が落ちないのです」
「大きなお世話！　……というか恋愛関係のお説教だったんだ」
　拍子抜けしたが、しかしヴィクトリア朝を生きていた先祖に恋愛指導される覚えはない。
「女の魅力を磨くため、上手い色仕掛けを教えてあげます。可愛い子孫が嫁き遅れるのは見過ごせませんわ」
「あたしはまだ十六、心配するような年じゃないでしょ。ご先祖様とは時代が違うの！」
　言外に「先祖は価値観が古い」と含んだのが伝わったらしい。先祖は眦を吊り上げた。
「んまっ！　礼儀作法がなっていませんわ。いい機会です。奉公先でメイド修行してきなさい」
「嫌よ。読モのバイトしてるんだからそれで十分。この上バイト増やしたらクラ同にも顔出せないし」
　しかし気になるのは先祖のクラシックなメイド服。るるかの目から見てもそれは十分可愛く素敵なものだった。
「ね、ちょっと着させてくれない？」
「駄目です！　服を貸せば私が下着姿になってしまいます！」
「……ケチ」
　真っ赤な先祖にこれ以上ねばっても駄目か、とるるかは気を取り直す。
「そだ、ご先祖様。今流行のファッションやスイーツに興味ない？　あたしが着てるの、お気にのブランドの夏の新作」
　るるかは自分に興味を持つ先祖の目に気づいていた。絶対に先祖にはギャルの素質がある。
「このネイルも可愛いでしょ？　教えてあげよっか？」
「……お願い、します」
　恥ずかしそうに小さく頷く先祖にるるかはくすりと笑った。
「任せて！」
　意気投合した二人は楽しそうにガールズトークで盛り上がる。男を転がすテクなどを教えて先祖に教えてもらったるるかは嬉しそうで。そして先祖が携帯の使い方をマスターした頃には、楽しい時間は終わろうとしていた。
「スカーレット……だっけ。あたし誤解してた。話してみれば意外とイイ奴じゃん」
「わたくしこそ誤解していました。るるかは魅力たっぷりの女の子でしたわね」
　すう、と先祖の体全体が透けていく。そろそろあの世へ帰る時間だ。
「もう帰っちゃうの？　残念～。また来年ね！」
「ええ、また来年にお会いしましょう」
　先祖はスカートの裾を摘んで優雅に一礼し、あの世へ帰って行く。
　るるかはいつまでも手を振っていた。来年を楽しみにして。