ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

ご先祖様と一緒

　海のような深い青の色は自分の瞳と同じ。だからこそこんなにも親しみがあり綺麗なのかと本条小萩は目を輝かせた。
　キラキラとした目で見つめられ、居心地が悪そうにそわそわするのは小萩と同じ顔をしたドレス姿の令嬢。小萩との違いは髪の色くらいか。
「本条アンヌ＝マリーさんですね！？」
　目をキラキラと輝かせたまま小萩は令嬢へ突撃。
「もちろん小萩のこと知ってますよね？　小萩はアンヌ＝マリーさんの可愛い子孫なんですから！」
「え、ええ」
　先祖は戸惑いながらも頷きを返す。知っているからこそこうして会いに来たのだ。――まさか子孫が先祖の素性を調べているとまでは予想しなかったが。
「小萩のご先祖様ですごい人がいないはずがないと思って調べてみて一番すごい人だったので知ってます！　明治時代に国際結婚なんてアンヌ＝マリーさんも充分にロマンチックしてるじゃないですか！」
　先祖の一人がフランス令嬢と国際結婚したとわかった時、小萩はとてもドキドキしたのを覚えている。しかも偶然残っていた何代も前の先祖の写真に映るのは、髪の色だけが違うドレス姿の小萩だったのだから。
　ならば自分のこの青い目は彼女からの隔世遺伝。運命めいたものを感じてしまうのも無理はないだろう。
「それでアンヌ＝マリーさんは小萩に何かご用ですか？　先祖から子孫に伝えなきゃならない秘密があるなら、どーんと任せてください！　小萩が問題解決しちゃいます！」
　浮き足立つ小萩に先祖はため息をついた。
「あなたは夢を見すぎなのです。もっと現実を見なさい」
「現実、ですか？」
「平九郎さんも絵の道という夢と旧家の長男という現実との間でとても悩まれました。そして絵を諦め、家を継ぐ事を選んだのです。あなたにもいつか決断しなければならない日が訪れます」
　子孫を思い苦言を告げる先祖だが、それは小萩には通用しなかった。
「心配してもらわなくても大丈夫です。小萩ならどっちかなんて言わないで、両方ともできちゃいますから！　小萩は平九郎さんの絵の道の夢を代わりに叶えてみせます。ステキな結婚だってしちゃいます。お二人の愛を受け継いだ小萩にならできます」
「えっ、あっ――うん……？」
　ここで小萩の台詞を否定してしまえば、国際結婚までして貫いた夫・平九郎との愛までも否定していまうのではなかろうか。
　小萩の勢いに流されかけた先祖は思わず「うん」と発してしまったものの、それは決して肯定の「うん」ではない。むしろ疑問の「うん」だった。
「そんなことより、お二人のラブラブトークとか聞かせてください！」
「ぬ！？」
　自分の葛藤を「そんなことより」と流された先祖は焦るが、続いた小萩の台詞に動きを止める。
「『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy』で使えるかもしれません」
「……ああ……あのジャパニーズコミックペーパー……」
　小萩を見守っていた先祖はその存在を知っていたらしい。
「アンヌ＝マリーさん、読んでくれたんですかっ！？　どうです？　面白いでしょうっ？」
　何を言ってもポジティブに捉えるんだろう子孫に、先祖は降参とばかりに白旗を上げた。