ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　ゆさゆさと誰かに肩を揺さぶられている。
　まだ尾を引く眠気はあったが、聞き覚えのある声に気づいた夜榊水月は起き上がる。
「ん～？」
　ぽやんとした目で水月は隣の少年を見、へらりと笑う。
「……あ～……ヤッホーご先祖様～、久しぶり～♪」
「お前ほんっとマイペースだな」
　水月と同じ顔をしていながら不似合いなやや荒っぽいしゃべり方するのは彼――水月の先祖の癖だ。可愛らしい顔をしていた少年時代は色々と苦労していたらしい。
「毎年盆にお前んとこの実家に行く度に、俺がいる方に向かって手ぇ振ったり挨拶したりしてたから、まさか本当に見えてんじゃねえかと疑ってはいたが……マジに見えてたんだな」
　霊感アリアリかよ、とうな垂れる先祖に子孫はにこにこ笑う。
「そうだよ～？」
「……お前ふわふわしすぎだ。もっとしっかりと将来を見据えておけ。苦労すんぞ？」
「え、今日はお説教？　え～、大丈夫だよ～、ケセラセラだよ～」
「あと女装が似合いすぎるんだよ！　手遅れになって変な事件に巻き込まれる前にいろいろ改善しろ！」
「女装は～、似合うから良いんだよ～……ってお父さんとお母さんも言ってたよ～」
　まさかの両親からの女装許可に、先祖はその場で頭を抱えた。
「あんの心広すぎる夫婦は……っ！　あっちに行けばよかった……！」
　今更盆の行き先を変更することもできず先祖はうめく。そんな先祖を水月は不思議そうに見た。
「前に会った時は今のままでも別に良いって言ってくれたのに～……何でいまさら～？」
　水月のツッコミに先祖はそっと視線を逸らす。
「姉貴に行けって言われて……」
「前に言ってた双子のお姉さん？　お説教して来いって言われて来たんだ。……ふ～ん、そっか～……ご先祖様も大変だね～」
　水月には双子の妹が、先祖には双子の姉が。ややガミガミと厳しいことを言う性格は共通だった。だからこそこの二人は気が合っているのかもしれない。
「わかってくれるか子孫……！　俺あの世に行ったら姉貴はガミガミ言わないって思ってたんだけどな」
「ガミガミしてるとお嫁の貰い手なくなっちゃうのにね～」
「だよなぁ？　よっぽど気の強い女が好きじゃないとありゃ無理だ」
　女達がガミガミと口喧しいのはそもそも水月達が原因なのだが、当事者には心当たりがないらしい。
「……ま、これで義理は果たした」
「だね～」
「んじゃ今日は遊ぼうぜ。趣向を変えて百物語はどうだ？」
　蝋燭を準備に笑う先祖に水月は嬉しそうに手を叩く。
「うん、やるやる～♪　んじゃまずは僕からだね～♪　ん～、どんなオバケが出てくるか楽しみだよ～♪」
「だろだろ？」
　和気藹々と遊ぶ男二人。楽しい時間が流れ始める。
　――しかし、先祖は知らない。
　あの世にいる双子の姉が一連のやり取りを監視しており、オバケもビビる顔で怒っていることを。