ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　それは一陣の雷光を背に、雲を切り裂くようにして風雲児轟の前へと現れた。

「『寝子武者』直芯。推参――！」

　轟の目の前に立つのは一人の武士。黒漆塗の胴具足を纏うその偉丈夫は、惜しむべきかその精悍だろう顔を鉄の仮面で覆い隠している。その仮面から覗く目は鋭いもので、轟は思わず姿勢を正す。
「我が末裔、風雲児家子息――轟に違いないか」
　よく通る声で問われ、轟は静かに頷いた。末裔と呼ぶからには、この武士が轟の先祖なのだろう。
「長きに渡り、お主の行動を見ていた。我が問いに答えて欲しい」
「俺に答えられることならば」
　その返事に先祖は小さく頷いた。
「我はこの地に生まれ、死する時まで故郷を守るためこの身を捧げた。寝子島という故郷を守る事、即ち己にとっての正義に他ならん」
　轟を見守る先祖はずっと疑問に思っていた。何故あのように隠れるようにしながらも、それでも正義を成そうとするのかを。
「ならば堂々と正義を名乗ればいいだろうに、何故名乗らぬ」
「確かにそういう考え方もある。……だけど、今や安易な正義や大義が満ち溢れちまってる。だから考えなしに正義を名乗って、もしそれが間違いだったら正義を貶めることになる！　それだけは絶対に避けなきゃならねぇ！」
　自分が非難されるだけなら甘んじて受け入れる。しかし自分の行いによって『正義』に失望されるなど、あってはならない。
「だからと言ってそれがこの島を守らないなんて事にはならねぇ。俺は『この島を守りたい』っていう俺自身の意思でこれからもこの島を守る！　だからご先祖様！　俺は自分から正義を名乗るわけにはいかねぇんだ！」
「何を成してもそれは風雲児轟の功績にはならん。お前があの姿で正義を成しても、誰も轟が成したとは認めぬ。それでも構わぬのか？」
「俺は誰かに認めてもらうために正義を成すんじゃねえ！」
「……言いたい事は理解した」
　轟の啖呵に先祖は仮面の下で笑う。
「しかし理屈と感情は別物。お主が正義を名乗らぬのは納得できん」
「くそぉ、理解してくれてるのに納得してくれない！　これがジェネレーションギャップか！」
　呻く轟は先祖を見据えた。どうしても先祖にはわかってもらいたい。自分の心を。
「本来なら寝子島を守るためにしか使わないと決めてたけど、俺の思いの結晶である『ザ・ストレイト』になって伝える事に意味がある！」
　轟の意思と信念が言葉で伝わらないのなら、伝えるべき手段はただひとつ。

「――戦衣着装！！」

　その叫びをトリガーに轟のろっこんが発動する。眩い光と共に現れたのは、ヒーロー『ザ・ストレイト』だ。
「まさか人前で、先祖の前で変身することになるとは思わなかった。だが、これですべての思いをこの拳に乗せられる！」
　轟の――いや『ザ・ストレイト』の戦意を理解した先祖は油断なく大太刀を抜いた。
「譲れぬ思いのため拳を握る、その意気や良し！　『ザ・ストレイト』よ！　この『寝子武者』直芯、お相手仕る！」
　そして、戦闘が始まった。
　なんとも不器用な男達を、『寝子武者』の妻が呆れ笑いで見守っていたことは誰も知らない。