ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　不思議な色をした雲が足元に広がる奇妙な世界。
　前触れもなくそこに放り出された北原みゆきは、小高い雲の塊に寝転んでいた少女に捕まった。
　にこりと笑う自分と同じ顔の少女。西洋人の風貌なのにざっくばらんに着崩した白装束が不思議としっくりと似合っていた。
　その白装束の裾が捲くれ上がり、真っ白な脹脛が覗いていることに気づいたみゆきは慌てて裾を直す。
「細かいこと気にするのねぇ」
　同じ顔だから余計に恥ずかしい。みゆきはきょろきょろと周囲に誰もいないことを確認してから、やっと安堵のため息をついた。
「……あの、ここってどこなんですか？」
「さあ？　盆が近いからって子孫の家に行こうとしたら、どうしてだかここに来ちゃってね。ここなら丁度話したい子孫が呼べそうだったから試しに呼び出してみたわけよ」
「子孫って……え？　私のご先祖様、なんですか？　そんなに若いのに？」
　若々しいその姿にみゆきは首を傾げる。自分の容姿が幼いためか、もしかしなくてもこれって遺伝なのでは、と思ってしまう。
「そう、私はあなたの母方の先祖よ。いくつに見える？　――ふふふ、でも答えてあーげない。歳がバレると照れちゃうじゃないの。それでねぇ、ミューちゃん」
「みゅ、ミューちゃん！？」
　いきなり変なアダ名つけられたみゆきは驚きの声を上げた。その反応に祖先は笑う。
「いいでしょ。いい歳してノーラなんて名乗ったりするよりは……」
　変なアダ名つける人に言われたくない、とみゆきは言い返そうとしたが、焦って言葉が出てこない。
「ほーら、興奮すると焦っちゃう。周りのことが見えなくなることあるでしょ」
　図星だったのかみゆきは首を竦めた。
「……思い当たる節がいっぱいあります。ハイ、反省しています」
「冷静さは大事よ？　だけどここぞという時は遠慮しちゃ駄目。損しちゃうわ」
　損という言葉にみゆきは疑問をぶつけてみることにした。
「……ご先祖様は、若く見られて損したことないんですか？」
「あるわよ？　そのせいで周りにやっかまれて魔女狩りされそうになったんだから」
　あっさり先祖は答える。いつまでも美少女然とした彼女は周囲に嫉妬され、魔女のレッテルを貼られた。寸でのところで密告は回避できたものの当時は大変だったのだ。
「むしろ魔女になった方がいいわよ。楽だもの」
「いやです」
　先祖の魔女疑惑が出たが子孫はあえて質問しなかった。ホラーの方向のディープな魔女談義になりそうだったからだ。
「現世って刺激がいっぱいね。私気に入っちゃった」
「き、気に入っちゃったって……？」
　先祖はにっこりと魅力的な笑みを浮かべた。
「あの世は退屈だからお盆終わるまでずっと現世にいるわ。その度に夢に出てきてもいいかしら？」
「やめてください。お願いします」
　今がここぞという時だ。みゆきは遠慮せずお断りしたのだが、それが先祖に伝わったかどうかは――翌日答えが出るだろう。

「ミューちゃん、今夜もあーそびーましょーっ♪」
「やめてってお願いしたのにー！！」

　お願いを聞くかどうかは先祖次第なのである。