ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　品の良いスーツを着こなす八神修と同じ顔をした青年は、人好きのする笑みを浮かべていた。
　修には目の前の人物に心当たりがある。彼は外国との貿易で財を成し八神家の土台を作った立役者――父方の曾祖父だ。
「それで、何か御用でしょうか？」
　いくら盆時期とはいえ不思議な空間に呼び出される覚えはない。しかし先祖には呼び出し上等の理由があった。
「修、お前はオクテすぎる。皆ヤキモキしまくっとるよ」
　皆って誰だ。その疑問が修の顔に出ていたのか先祖は朗らかに笑う。
「俺の愛妻と恋人達に決まっているだろう」
「えっ」
　曾祖父は大変な女好きで妻と恋人多数との仲睦まじい関係は『生涯現役』だった、と伝え聞いてはいた。
　まさかあの世で仲睦まじく曾孫ウォッチングしているとカミングアウトされるとは。できれば知りたくなかった。
「七夜嬢を見初めたのはなかなか目が高い。ありゃ良い女だ」
「そこもお見通しなんですね……」
　七夜あおいが好きだと先祖達に筒抜け。正直叫び出したかった。意地でもしないが。
「もっとガーンとアピールしろよ。毎日薔薇の花束を贈って愛の詩を囁くとか印象に残ることをやってみろ」
「そのアピールはハードル高すぎますよ！？」
　思わずツッコミを入れた修は、気まずそうな表情で咳払いをする。
「あおいにはじっくり好きになって貰えたらと……。悪目立ちさせるような迷惑かけたくないです」
「恋愛は目立って何ぼだ。あと七夜嬢以外の女性にも目を向けろ。お前一人お断わりしたな？　勿体無い、あんな素直な子を悲しませおって馬鹿者が」
　それを指摘されるとは。誠実な対応こそが修にとっては正しさだったが、祖先からすれば駄目出し対象だったようだ。
「もっと沢山の魅力的な娘さんと付き合え」
「しかしご先祖、同時に複数の女性というのは不誠実では？」
「何を言う、不誠実なものか。全員を平等に愛して、二人きりの時はその人だけ見れば問題無い」
　堂々と言い切る先祖の姿に子孫はある種感服する。曾祖父の実例は参考にはできないが。
「七夜嬢だけと言うならもっと自分を売り込め。商売と同じだよ」
　不意打ちで意外性を見せろ、母性本能を擽る脆さをチラ見せしろ、駆け引き交えてその子を助けろ、と具体的な注文が続く。
　異様にノリノリの先祖に修は言い知れぬ不安を感じる。何だろうこの前振り。そして修の不安は即的中する。
「俺が憑依して実践してやろうか。別に七夜嬢と会いたいからじゃないぞ。お前の応援のためにだな……」
　冗談めいた声で先祖は言うがその目はマジだった。身の危険を感じた修は無言で先祖との距離を取る。
「待て修、どこに行く」
　気づく先祖に修は背を向けた。
「憑依は結構です！」
　お断りして駆け出す修だが――、

「遠慮するな。お前は見てればいいだけだから」

　――残念ながら先祖からは逃げられなかった。

　――翌朝、修と出会った者は誰もが口を揃えて言った。

「今日は妙にイケイケだね？」

　それに対して修は意味ありげに微笑むだけ。
　もしかしたら、本当に先祖が修に憑依でもしていたのかもしれない。
　しかしそれを確かめる術はどこにもなかった。