ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　不思議な空間に呼び寄せられた佐々藤寿は、物珍しそうに雲の絨毯を歩いていた。
　意識がはっきりとある奇妙な夢だなと思うが、ここ最近の寝子島はだいたい不思議なことが平常運転だから考えても仕方がないだろう。
　歩き続けていると、後ろから誰かが走ってくる音がする。それと自分の名前を連呼する大声もだ。

「おーい、藤寿！　藤寿ー！」

　見れば軽快に駆けて来る体躯のいいスーツの青年が一人。その顔は藤寿そっくりだった。
「いないからここら一帯走り回ったじゃねえか！」
　先祖は藤寿に座れと顎しゃくる。座らないと話が進みそうになかったので藤寿は仕方なしにその場に座った。
「見てわかるように俺はお前の先祖だ。子孫の様子を間近で見てたんだが……お前には異性をを意識することがない！　関わってもいい人止まり！　このまま家系を絶やすつもりか！」
（妹もいるし絶えはしないだろ……）
　大袈裟なと思ったが、まだ口を挟む段階ではない。まだ先祖の話は続いている。
「とりあえず服装を改めろ、ジャージってなんだジャージって！　モテようとは思わないのか！　まさか男にしか興味ないのか！」
　熱弁する先祖に藤寿はため息をつき、発言のため手を挙げた。
「はいはい、それで全部ですか」
　先祖が頷いたので藤寿は反論を開始。
「お前は勘違いしてる。俺は別に女に興味ない訳じゃない。まして男に興味があるわけねーだろ」
　当たり前の事実を述べただけなのだが、先祖の表情は見る間に明るくなる。
「女に興味があるのか！」
　どれだけ疑われていたんだろうか。少なからずカチンとくる。
「そもそも俺はいつも何かしら体動かしてるんだ。その時にジャージなら動きやすいんだよ、鍛えてるのならわかるだろ？　動ける服装の大切さが」
「そ、それはそうだが」
　先祖も体を動かす方らしく、藤寿の反論に頷いた。
「で、いい人止まりな件だが……確かに積極的ではないな。痛いところだ。まあなんだ、これから頑張りますよ」
　こう締めておけば先祖も大人しくなるだろう。そう考えた藤寿だが、先祖は何か言い忘れていたらしい。
「……それとな、お前シスコンだよな？　いや妹ちゃん可愛いけどちょっと距離近すぎないかなって」
「まだ言うか！　とっとと帰れご先祖様よぉ！」
　神妙な顔で近づいてきた先祖に、藤寿はキュウリの精霊馬を投げつけた。しかし距離が近すぎたため、変化した駿馬に頭突きをノーガードで喰らった先祖は雲の上で悶絶する。
「ひひんっ」
　しかし精霊馬は非情だった。そのまま先祖の襟首を咥えると、そのままあの世に向かって走り去る。先祖の悲鳴が聞こえたが、たぶんきっと気のせいだ。
「子孫をシスコン呼ばわりするから……」
　罰が当たったんだろうな、と藤寿は思う。
「しかし、いい人止まりかぁ……」
　藤寿は重々しくため息をついた。自分と同じ顔に指摘されればそれなりに堪える。
「さっきは適当に流したが、こればっかしは直した方がいいかもしれないな」
　どれだけ改善できるかわからないが、藤寿は先祖の心配をスルーできそうにはなかった。