ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　桐野正也の先祖は立腹していた。目の前の同じ顔をした子孫の青年に。
　現代の現世には気概のない男が多すぎる。そう立腹していた矢先に不思議な力で子孫に会えることとなり、喝を入れてやらねばとあの世を飛び出したのはいいが――その子孫までもが、牙のないおとなしそうな顔をしているとは。
「何だそのしなびた青菜みてえな顔は！　男らしく雄々しくキリっとしてみろ！」
「い、いやいきなり言われても？」
　正也は戸惑うばかりだ。見知らぬ場所で目覚めたと思えば、自分と同じ顔をした着物の青年にいきなり大声でまくし立てられては無理もない。
「子孫なのに先祖の言うことが聞けねえのか！」
「いやいやいや！　てかあんた父方母方どっち！？」
　目の前の青年が先祖だとは疑わしく、正也は思わず疑問をぶつける。
「血縁関係なんか知るか！　俺の家は十人兄弟だし奉公行ったきりの奴もいたしで知らんわ！」
「多！？」
「江戸時代は娯楽少ないんだよ。暗い部屋に男と女が二人いるならすることはひとつしかねえだろうが！」
「ふぁ？！」
　真顔で断言する先祖に正也は狼狽し赤面した。
「木の股から生まれたわけじゃねえだろうに、なんだその反応……」
　呆れた先祖はずっと言おうと思っていたことを口にする。
「そもそもおなごの肌を見たくらいで倒れるとは情けない！！　そこはありがとうございますだろう！　この場を借りて俺が代わりに言ってやる、ここの神様、女子、ごちそうさまです！」
「俺が言ったみたいに言うな！　ご先祖の割に現代語になれすぎてないか？！」
　いくらキリッとした顔で代理発言と装ってもアウトである。
「好きなおなごには押し倒すぐらいが丁度いいんだよ！　男らしさを見せなきゃ女は寄ってこねぇぞ」
「何時の時代の理想像だよ！　そんなのやったら嫌われる以前に俺捕まるから！」
　実行すれば白と黒のツートンカラーの車が赤いライトを光らせてやってくるだろう。鎖がチャームポイントな鉄のブレスレットははめたくない。取調室で自腹のカツ丼も食べたくない。
「生きにくい世の中だな現世」
「ご先祖がフリーダムすぎるんだよ」
　言い返し、正也は視線を泳がす。
「そ、それにまだ好きってわけじゃないし向こうも気にしてないみたいだし……」
「と言うかだな、あの世じゃみんなお前がうらやまなんだよ！」
「だーもう！　茶化すな！」
　悪ノリするなと正也は先祖を睨むが、ところがどっこい先祖の目はマジである。
「むしろ代わりたいよ、代わらせてください、てか憑依させろ！」
　たぱたぱと鼻血を垂らして熱弁する先祖。彼の脳内ではどんなラッキースケベな展開が繰り広げられているんだろう。
「断る！　てか鼻血は遺伝なのかよ！　堂々と鼻血流してんじゃねーって！」
　何が悲しくて自分と同じ顔をした男の首をトントン叩いてやっているのだろうか。
　正也は不思議な色の空を見て、思わずため息をついたのだった。