ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　見知らぬ者同士で顔を付き合わせた場合、まずすることは自己紹介だろう。
　この不可思議な雲が足元に敷き詰める世界で、ある意味での奇跡の邂逅を果たした屑利執と彼と血の繋がりのない沼田権兵衛。
　二人は真面目に話し合った結果、場が持たないよね的な結論から、執のろっこんで沼田さんを呼び出すことに決めた。
「便利な呼び出し方があるなぁ」
　権兵衛は興味深そうに執が描く魔方陣を見ている。
「あんたの子孫の沼田さん専用ですけどね」
　言って執はろっこんを発動させた。この不可思議な空間で使用できるかどうかは謎だったが、感じる手応えに内心安堵する。初対面の他人（しかも幽霊）と会話を続ける自信はない。
　そして召喚は成功し、魔方陣から人影――沼田さんが現れる。全裸で。
　誰よりも早く異常に気づいた沼田さんは真っ赤になってしゃがみ込み、

「きゃぁぁああ！？」

　甲高い悲鳴を上げる最中に自分と同じ顔の先祖の姿を見て、

「きゃぁぁぁぁああああ！！！？？」

　更に悲鳴を追加した。
　一般人である彼は余裕でキャパ越えしたらしい。壊れたスピーカーのように悲鳴を上げ続けている。そのまま気絶しなかっただけ根性があると思いたい。
　羽織っていた白衣を沼田さんにかけ、執は思う。ごめんなさい、と。

「えー、本日はどういったご用件で？」
　どうにか冷静さを取り戻した沼田さんは先祖に訊ねる。しかし先祖は「えっ」と驚きの声を上げた。
「いや特には。……強いて言えば、子孫を見に？」
「本当にあんた何で来た」
　半目で沼田権兵衛を見る執。視線に耐え切れなくなったのか、権兵衛は慌てて話題を変えた。
「な、何かしら話もあるだろう。言ってみろ」
「それなら亡くなった婆ちゃんは元気にしてるだろうか」
「元気だぞ。あの世でインディーズバンド始めたくらいだし」
「婆ちゃん三味線上手だったからなぁ……」
　良い祖母だったのだろう、ぐすりと涙ぐむ沼田さん。
　そのまま酒まで持ち出し始まる沼田家の身内談義。挙句税金やら年貢やらの話になってしまえば、一介の高校生である執がついていけるはずもない。
「……終わったら起こして」
　会話に参加することを諦めて、執はその場でごろりと横になる。決して不貞寝ではない。
　幸運なことに雲の絨毯は寝心地良しのふっかふかだった。何処までも続く絨毯の上、奇妙な物に執は気づく。精霊馬だった。
　執はちらりと盛り上がっている沼田コンビを見る。
　酒が入り大盛り上がりの沼田権兵衛。湯冷めしたのかくしゃみをしている子孫の様子に気づいていない。……さすがに地味にイラッときた。
「もう帰れ！　早急に帰れ！」
　執が投げつけたキュウリの精霊馬は空中で見事な駿馬に変化し、かぷりと沼田先祖の襟首を加えて猛ダッシュ。
「困った事があれば連絡するがいい！　Gonbe@yu-rei.co.anoyoでメール送れると思うからー！」
「マジでか」
　どれだけ文明開化しているんだあの世。執と沼田さんは同時に思う。
　残された二人が挨拶を交わし、この空間を去る頃にはとっくに夜は明けていた。

　――後日、本当にメールは送信できた。できてしまった。
　しかしそれが本当に祖先へ元へ届いたのかどうかは定かではない。
　ちなみに沼田さんは湯冷めして風邪引いていた。