ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　瓶底眼鏡で隠していたはずの釣り目の三白眼をさらした自分が目の前にいる。
　多喜勇生は慌てて自分の顔に手をやった。そして眼鏡のフレームの感触にほっとする反面、目の前の青年が鏡に映った自分ではなかったことに気づく。
「……どちらさまで……？」
「つれねえことを言うなよ。俺はお前のご先祖様だぜ？　他人行儀はよくないぞ」
　くつくつ笑いつつ、先祖は勇生の顔を覗き込む。
　普段苦手としている自分と同じ三白眼の悪人顔に勇生は目を逸らすが、先祖はそれが面白くないのか音もなく移動。目線の先に音もなく瞬間移動された勇生ははビビった。
「ごめんなさい！　ちゃんと目を見て話を聞きますぅ」
　両手を上げて降参する勇生に先祖はニヤニヤ。面白い玩具を見つけたと思っているに違いない。
　おどおどびくびくしている子孫の姿に、先祖は呆れたようにため息をついた。
「どうしてお前そう自己評価低いんだ？　俺は色男でモテてたんだ。だから勇生も顔には自信を持て。むしろこんな男前な顔を嫌がることが情けない」
　それは先祖の性格もあったからこそモテていたのでは。しかし自分の顔を悪人顔だと思い込んでいる勇生にとっては目から鱗の意見だった。
「ろっこんを使ってる時のお前は俺とそっくりだ。自信を持って堂々としていりゃ何の問題もない。気の持ちよう次第でお前だって良い男になれるんだぜ」
　途中からお説教から励ましにシフトしていたが、二人はそれに気づいていなかった。
（確かに恥ずかしがってるよりも堂々とした方が格好いいもんね）
　そう思った勇生は小さく頷く。
「が、頑張ってみます」
　気の持ちようで変わることができるなら。勇生もそれを信じたい。
「よしよし、素直な子孫にはご褒美だ。女を落とすテクを伝授してやるよ」
「一応聞きますけど……」
　素直に頷く勇生に先祖はニヤリと笑った。
「まず手の爪は小まめに切っておけ。最中に引っかいちまうと可哀想だしな」
　前提条件を言って本題に入ろうとした先祖だが、ハテナマークを大量に浮かべている子孫を見て言葉を止める。
「……ああ、まだピンとこねえか」
　一人納得し先祖は子孫に耳打ちする。具体的な内容を臨場感たっぷりに。かーっと勇生の頭に血が上る。
　耳や首まで赤くなった勇生は焦って先祖を見た。
「ぼ、ぼぼ、僕高校生ですよっ！？」
「一番興味ある時期だろ。遠慮すんな、まだまだ序の口だぜ？　それにこれは夫婦円満の秘訣にもなるんだ、聞いてて損じゃねえよ」
　しかし刺激の強すぎる話は勇生の許容量をあっさり超えた。
　自主規制音だらけの話を止めないと！　勇生は足元にあったナスの精霊馬を手に取った。
「もう結構です！」
　ぶん投げた精霊馬は見事な雄牛へ変化。雄牛は丁寧に先祖を背中に乗せると、のんびりとあの世目指して歩き出す。
　ゲラゲラと大笑いをしながら先祖は大きく手を振っていた。よほど楽しかったのかその顔に浮かぶのは満面の笑顔だ。
「ご、ご助言はありがとうございました！」
　勇生は礼を言って先祖を見送る。
　真面目な子孫の反応に、先祖はまた大笑いした。