ご先祖様、奮闘す。｜リアクション

ご先祖様、奮闘す。

　まさかコスプレした自分を見ることになるとは。
　桜崎巴は目の前に立つ娘――辻が花染めの小袖を纏う自分と瓜二つの娘をまじまじと見た。注視すれば僅かな細部が見て取れる。髪の長さ、肌の色。どれもほんの僅かではあったが。
「誰だいあんた？　見たところその袖の短さから、戦国辺りの装束のようだが」
　堂々とした態度の巴に、巴そっくりの小袖の娘は艶やかに笑う。
「先祖に向かって物怖じしない奴だねぇ。……あたしの若い頃によく似てるさ」
　わざわざ盆時期にあの世から嘘を言いに来たわけでもなさそうだ。巴は目の前の娘が先祖だと納得する。
「そりゃ素敵なこって。で、その素敵な先祖様が一体何の要件だい？」
　巴の言葉に先祖は待ってましたとばかりに身を乗り出す。
「決まってるだろ、そろそろ旦那は見つけないのかい？」
　ぶふっ！？　と巴が咽た。ストレートすぎる。げほごほと咳き込む巴は赤くなる頬を隠せずに、照れのためか早口で先祖に言い返す。
「生憎、あたしにゃ世界を変えるって野望があるんだ、男なんざにかまけてる暇はないし、必要ないね！」
「阿呆、そいつを両立してこそ一人前だよ。デカい事は、何でも裏からやるもんだ。そのためにゃ、自分の代わりに矢面に立たせる人間が必要だとは思わないのかい？」
　しかし返ってきたのは容赦ない声。言われた巴は得心する。
「確かにその通りだね、流石はあたしのご先祖様だ。が……、別に旦那じゃなくても構わないだろ！」
　まだ高校一年生なんだ、と続ける巴に先祖は首を横に振った。
「いいや構うね！　それじゃああんた、そいつが裏切らないって事をどうやって担保するつもりだい？」
「それは……」
　先祖の指摘はもっともだ。どれだけ頼れる腹心を得たとしても、その者が未来に至るまで心変わりしないなどと誰が保障できるのだ。
「ほぅら思いつかない」
　言葉に詰まった子孫を先祖は微笑ましく見つめ、秘密を打ち明けるようにそっとひとつの例を挙げた。
「……ところで、だ。愛の力ってのは、時に恐ろしく強い力を発揮するとは思わないかい？」
　その言葉に巴はすぐに答えに辿り着く。
「愛で腹心を買う、って事かい……。なんつう恐ろしいご先祖様だ！」
「恐ろしいことなんぞあるものかね。互いに愛し、愛されればいいだけのことなんだからさ」
　そう言って笑う先祖には説得力がある。彼女も愛によって腹心たる伴侶を得たのだと、巴は見抜いた。
「巴。言っとくが、あんたからもしっかり愛を注いでやらないと、今みたいな話は通用しないよ。わかってるね？」
　相手を守り、最後まで盾となる。
　それは想いが通じ合っているからこそできることなのだ。打算的な考えではいずれ裏切られることとなろう。
「だー！　わかったよ！　相思相愛になれる相手を見つけりゃいいんだろ見つけりゃ！」
「そう、その勢いだ。公私に頼れる旦那がいれば世界を変える大仕事も捗るだろうさ。期待してるよ、巴」
「そりゃどうも」
　先祖の方が上手だと悟った巴は降参とばかりに両手を上げた。

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