カミキリ｜リアクション

カミキリ

○髪切り魔の正体は？

　覆面の男の逃げた先には、長い髪の人物がいた。
　長髪に、白シャツの裾をＧパンの上で結びスニーカーを履いた姿は、一見スレンダーな女子大生。
　時折うっとおしそうに髪をかきあげる。
「うおおおおー！」
　破れかぶれになっている髪切り魔のハサミが光った！
　咄嗟のことで反応できないのか、女子大生の長い髪はざっくりと……
「切れない……だと？」　
　犯人が信じられないといった様子でハサミを見る。
「手芸に使う極細ワイヤーを混ぜて彼方此方に植えてあるのさ」
　女子大生――に化けた修が種明かしをする。
　隠れて様子を見ていた夜光と真央も飛び出した。
「援護するのだ！」
　真央は水鉄砲でビシビシ男の覆面を狙い撃ちする。
　男は背を向け逃げ出そうとするが、夜光が発動したろっこんの光で目を眩まされる。
「髪切り魔！　何の恨みがあるか知らんが、人の髪を無駄に切るなんて邪道！
　お天道様が許しても、この九十九髪夜光が許せん！　覚悟しろ！」
　ラケットで顔面にスマッシュを繰り出す夜光。
　そこへ、叫び声を聞きつけた刀がろっこんで【加速】し走り込んできた。
「俺から逃げられると思うなよ！」
　ハサミを持っている手を内側から払いのけながら素早く踏み込んで間合いを詰める。
　その隙に修は犯人の手と共にハサミの持ち手を掴んで――
　【分解】した。
「大丈夫。大雑把に分解しただけだから、ネジを締めたら直るさ」
　呆然とする髪切り魔を、刀は抱き付くようにして捕まえた。そしてズボンのベルトを抜き取る。
　逃げられないようベルトで両足を固定するためだったが、犯人はもう逃げる気も起きないようだった。
　　
　夜光の光る頭を目印に、時子と五十嵐、そして美鶴と信彦もやってきた。
「レディを泣かした罪は重いよ！　警察に突き出してやろう！
　えっ？　野郎はそのままハゲれば良いと思うよ」　
「ハゲって言うな！」
「覆面のままパンツ一丁にして服で縛って道路に転がしとけばいいと思うのだ♪」
　信彦に突っ込みを入れる夜光に続き真央も言うが。
「まずは正体を見せてもらう！」
　轟が覆面をはぎとった。真央がデジカメのシャッターを切る。
　どこにでもいそうな顔の、スキンヘッドの若者が現れた。
「悪かったよ……」
　バツが悪そうに俯く。
　その言葉と彼の頭に、夜光のテンションが急に変わる。
「あんたもこの苦しみがわかるか……俺は……俺は……好きでハゲてんじゃねーんだ！」　
　涙を流しながら頭を耀かせ、男に抱き付く夜光。
「長い髪を嫌悪する理由を知りたいです。涼しいところでお話ししませんか？」
　時子が言うと、修もカツラを外しながら賛成した。
「これはカツラだから問題ないが、俺もじっくりと訳を聞きたい」　

　一同は近くの公園の木蔭に移動し、男は話し始めた。
　最近まで理容店に勤めていたという。
「資格を取って理容師になったはいいが、人と接するのが得意じゃなくて……同僚にも溶け込めなかった。
　そんなときに、長い髪を２ｍｍ短くしすぎた、ってうるさいお客からクレームつけられて」
　嫌気がさして店を飛び出してしまった男は、接客が怖くて再就職する気にもなれなかったのだと言った。
「もうハサミなんて捨ててしまおうかと思ってハサミを手に取ったら、なんだか無性に髪を切りたくなって」　
　それは神魂の影響だったようだ。ハサミを離せばその衝動は治まったのだけど、男はむしろ衝動に身を任せてしまった。
　悪いこととは知りながら、覆面で顔を隠して髪切り魔となったのだという。
「暑いから、かえって涼しくなっていいだろう、と自分に言い訳して……でも目が覚めました。本当にすみませんでした。二度としません」

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