中庭花壇、伝説のバラバーラ｜リアクション

中庭花壇、伝説のバラバーラ

●第二の犠牲者たち：望月君の証言

　第二の事件が起こったのは昼休みだった、と宇佐見望月は証言した。彼自身は言葉を濁していたが、男の友人、志波武道氏を見ても胸が高鳴ってしまうのは自分のノーマルな恋心ゆえだろうと無理やり考えていたらしい。
（以下、望月君の証言）
　

　――たしかに朝からへんだな、とは思ってたよ。でも最近、ほかに気を取られることがあって……そのせいだと思ってたんだ。
　授業中もずっともやもやしてた。そのうち『このきもちはなんだろー♪』ってのを押さえつける方がいいのか、それともそれが良くないのか、ぐるぐるし始めちまって……当たって砕けた方がいいのか、とかさぁ。
　そんで武道ちゃんに相談しようと思ったんだ。
　なんで、って、何かいろいろ知ってそうだし、頼み込めば告る練習もできそうかな、と……。
　いやもう、この時点で頭がよく働いてなかったんだって！

　ともかく昼休み、俺様は武道ちゃんを追いかけた。
　武道ちゃんは教室を出るとまっすぐ中庭に行き、あのバラバーラの木の下で立ち止まった。
　俺様はといえば薔薇みたいな匂いを強く嗅いでから、さらに胸のあたりがおかしくなってさ。
「はぁ……」
　自分でもため息が妙に艶っぽかったと思う。
　武道ちゃんが振り返った。武道ちゃんの頬が上気してた。マジな話、可愛かった。
　それを見た途端、俺様、無性にそのもわっとした気持ちから解放されたくなったんだ！

「ぶっどうちゃあああああん！　俺だ、望月だ、ラヴィ！」
　俺様は武道ちゃんに向かって駆けだした。
「なっ！」
　動揺した武道ちゃんは狼狽えて背中を幹に押し付けてたけど、俺様も自分が止まらなかった！
「何か知らんがラヴィ！」
　俺様は激しい脱衣の衝動に襲われ、シャツもズボンも脱ぎ捨てると部活ユニフォームのアンダー用に着ている黒スパッツ一丁になって武道ちゃんに襲い掛かった！
「も、もっちー！？　それ、俺の特技ジャン……！」
「そんなことはどうでもいいんだよラヴィ！　身体の奥底から湧き出るこの気持ちって何なんだ？」
「知らないＹＯＯＯＯＯ！！！」
　武道ちゃんは叫んでたけど、俺様だって必死だよ。
　気持ちを伝えようとしてもさぁ、言葉が出なくてさぁ！
　何かこう、抱きしめたりとか、行動でしか表せねぇの。
　気付けば武道ちゃんにタックルして抱きしめてたわけ。
「武道ちゃん……」
「も、もっちー……？」
　互いの吐息が妙に耳に残ってる。
「俺、どーしたらいい？」
「もっちー落ち着いて」
「今、下手するとこのバラの木に『好きだ』とか彫りそうでさぁ……こういうときって、どうしたらいいんだ？　高ぶってしかたないんだ」
「え、高ぶるってナニが？　お願い、高ぶらないで！」

　武道ちゃんは口調こそ軽かったけど、すごく純情そうに頬を染めてた。
　正直に言うよ。このとき俺様の頭の中には武道ちゃんしかいなかった。
「……直接行動に出ても、嫌われないかな？　いきなりその、こうやっても大丈夫なのかな？」
　俺様は彼の耳元で囁くと、彼の身体を優しく押し倒した。
　彼は腕の中で小鳥みたいに震えていて……。

　

　ああ、そのときだよ。惨劇が起こったのは！

「アレ？　武道ちゃんセンパイともっちゃんセンパイ？」

　南校舎の窓から後木真央ちゃんが、すっごい瞳を輝かせてこっちを見てた。
　
　――皆まで言うな！
　俺様は絶句した！
　俺様の中の欲望と理性が怪獣大戦争を始めたみたいなもんさ。そんで僅かながら理性が勝っちまった！
　良く考えてみろよ！　俺様ってば黒スパッツ一丁で男を押し倒してたんだぜ！？
　その瞬間、竜巻が俺らを襲った。
　神の救いかと思った。
　俺様はその竜巻に紛れてその場から逃げた。
　すこし離れた茂みで、猫鳴館寮生の骨削瓢が腹を抱えてげらげら笑ってたけど、そんなことはどうでも良かった。とにかくその竜巻に俺様は助けられたんだ――。
　