夕暮鳥居のその向こう｜リアクション

夕暮鳥居のその向こう

　カップ入り唐揚げとイカ焼きの入った袋を片手にぶら下げ、譲はカメラを構える。茜色の石畳を駆けて行く子供達の後ろ姿にシャッターを切る。続けて、風流な風鈴屋台の前で真剣に悩む風の子犬の面の少女。祖母らしい老婦人と仲良く手を繋いで歩いて行く梟の面の少女。
　ファインダーを覗き込み、譲はちらりと首を傾げる。シャッターを切る瞬間、何だか妙に暗いように感じるのは何故だろう。
(でも、それより皆お面被ってるから表情撮れないのが少し残念だなぁ)
　構えたカメラを下ろして、屋台で賑わう参道をぐるり、見回す。茜の空に色とりどりの屋台に行き交う人々に、楽しげに巡らせた視線が、ぴたり、止まる。
「ん？」
　呟いて、同時に戦場カメラマンの身軽さで駆け出す。
「じいちゃん！？」
　面を掛けた人々の脇をすり抜け、お社に至る階段を登ろうとしている老人の背中を呼び止める。
　振り返る、譲のものよりも何世代か前の仮面ニャンダーの面を被った老人は、間違いなく祖父の声で、
「ジョー」
　子供の頃に呼んでくれたのと同じに、譲を呼んだ。
「やっぱり、じいちゃん」
　早くに他界した両親に代わり、譲を育ててくれたのは祖父母だった。だから、譲のとっての親は実質、祖父母だった。
　戦場カメラマンだった祖父は、帰国する度に色んな国の話をしてくれた。
(俺、じいちゃんに憧れてたんだ)
「俺、戦場カメラマンになったんだ」
　祖父の背中を追うように、日本を飛び出した。
　祖父のように、様々な世界を旅した。
「ばあちゃんは反対するかと思ったけど、『あんたの好きにしな』って背中押してくれて……」
　くすり、祖父が笑う。
「ばあちゃんらしいな」
「じいちゃん」
　祖父は、譲が小学生の時に戦場で命を落とした。
　会えるはずのない人に思いがけず会えて、譲はけれど動じずに祖父に語りかける。
「俺今夢を追いかけて頑張ってるよ！」
　肩から提げた相棒のカメラに触れる。
「じいちゃんにはまだまだ届かないかもしれないけど……いつか追い越してみせる！」
　だからさ、と力強くサムズアップし、祖父に請け負う。
「心配しないで！　ばあちゃんのことも俺にまかせて！」
「そうだな、心配いらんな」
　頼り甲斐のある孫と元気に笑い合い、祖父はじゃあなと軽い口調で階段を登って去る。
(死んだじいちゃんに会えるなんか思わなかったな)
　死んでも軽い足取りの変わらない祖父を見送りながら、譲は呟く。
「今この島面白いことになってるっぽい？」
　黄昏の石階段を登って行く祖父の背中をファインダーに捉える。
　ここでも、題材に困ることはなさそうだ。
　笑うように、シャッターを切る。