【Side：忍】陰謀

　鳳翔 皐月は仲間の名も無き光の魔法少女に命を救われた。
「助かったぜ……」
　傷の手当てまでしてもらい、女王のいる陣地まで案内してもらっている最中だ。
「女王はこの先か。あとは１人で行けるぜ」
　すると皐月は小刀を抜いて、いきなり魔法少女の魔法石を貫いた。
「お疲れさん。もう起きなくていいぜ？　騙す方も悪いけどな、これって戦争なんだ。悪く思うなよ？」
　暗殺！　彼女は仲間を手に掛けた！
　倒れる相手に目もくれず、そのまま皐月は女王のもとへ向かっていった。

　この時、唐突に闇の城で派手な花火が上がった。
　戦場の空気が、ざわ、と波打った気がした。

「なるほど、忍者が……」
　女王はスカーレットの報告で忍者の暗躍を初めて知った。
「だから言ったのです！」
　ノーラがイオリと共にやってきた。
「今すぐ攻撃を中止してください！　忍者と思しき兵士を捕らえてきました！」
「いやー、苦労したっすよー！」
　ノーラとイオリは光側に潜む下忍たちを魔力でしらみ潰しに探索していたのだ。
　ただ、魔力で異変を感じた兵士を捕らえただけゆえ、冤罪もあるかもだがこの際、我慢してもらう他ない。
　その数、35名。
　紛れた下忍は25名なので、高確率で下忍が含まれていると思われる。
「……分かっていただけましたか？　このまま戦闘を続けていたら、忍者の思うツボ。兵を引き返して下さい」
「自分たちからもお願いするぞ……」
　コスモスとスノウも頭を下げた。
「饅頭欲しいなら、いっぱい作るから！　だからもうこれ以上の戦争はやめてくれ！」
「コスモスの言うとおりだ。頼む、兵を引いてくれ！」
　戸惑う女王。もはや後戻りができないといった表情だ。
「……戦争には大義が必要なのです。その大義を果たさずに多くの犠牲が出たのに、ここで戻すなんてできません！」
　あくまでも彼女は皇帝を討ち取ろうという考えのようだ。
「スカーレット、前線に戻りなさい。戦闘を継続します」
　命を受け、スカーレットを戦場に送る女王。
　彼女に和平の考えを持つ魔法少女たちが更なる説得をしようとしたその時だった。
「……女王様、大変だ」
　怪我をしたふりの皐月が女王の前に現れた。
「闇の皇帝が、女王と決闘をしたいと言っていやがる。城門で待ってるとさ……、痛！」
　苦痛に顔を歪めてその場にうずくまる皐月。
「決闘ですか。望むところです。私は行くわ」
　女王がずんずんと歩み始める。
「まった、女王！」
　コスモスが女王の前に立ちはだかる。
　その隙にスノウが皐月に近寄る。
「おい、魔法少女なら魔法石を見せてくれよ」
「……ひどい言い草だ。私は最初から一緒にいただろう？」
　皐月は脇腹をさすりながら反論した。
「言い訳はいい。さっさと魔法石を見せろ！　体の露出しているところにあるんだろう？」
「しつこいガキだね……。分かったよ、見せてやるからもっとこっちこい。怪我人にこれ以上歩かせるつもりか？」
　スノウは仕方がなく、皐月へ歩み寄る。
「もっとだ、もっと、もっともっともっともっともっと……！」
　誘う皐月の口調に違和感を覚えたコスモス。
　唐突にスノウのほっぺを舐めた。
「これは危険が迫っている味だ……！」
「やめろよ、コスモス！」
　スノウが歩みを止めた。
　その後ろを、何かが高速に通り過ぎていくのを彼女は感じた。
「……チッ、もう少しだったのにな」
　チンッと鍔なりの音がした。
「……お前、今、斬ったのか？」
　スノウの襟足が短くなっていた。
　これは、神速の居合斬り！
「やっぱり、忍者だったのか！　スノウを驚かせて正解だった！」
　コスモスの機転によってスノウは命拾いしたのだ。
「ちなみにほっペを舐めたのは、単に美味しそうだったからだ！」
「……」
　スノウは言葉に出来なかった。
「もう隠す必要はねぇよな」
　魔法少女の衣装を脱ぎ捨て、皐月は真の姿を披露！

「ドーモ、フェニックスです。アラサーでJKルックとか、そのへんツッコミは勘弁な」
　皐月の正体は忍者フェニックスだった！
「身代わりの術で殺られたふりして、九夜山を迂回してわざわざやってきたんだ。おとなしく斬られてくれねぇかな？」
　返答は無言。
　そして魔法少女たちが女王をガードする行動で答えを示した。
「魔法少女が兵器だろうがなんだろうが私は私。やりたいことをやりたいようにやってやるだけだぜ」
　納刀状態のまま、フェニックスは臨戦態勢に入った。
「不意打ち、闇打ち、奇襲、卑怯外道？　なんとでも言え。勝てば官軍だろ。正面から来ても負けねぇけどな」
　神速の居合を見た魔法少女たちは、迂闊に近付く事ができない。
　射撃を行おうにも、奥の手が読めない以上、下手に攻撃が出来ないのだ。
　フェニックスは女王の顔を睨み付けた。
「さて女王様よぉ。首は洗ったか？　お祈りは済んだか？　玉座から下ろされる準備はＯＫか？　……できてなくってもやめてはやらねえけどな！」
　この瞬間、一気に彼らを特濃の白い雲が覆い隠す！
（本当は襲われた時の目隠し用だけど、こういう使い方もあるのさ♪）
　近くで潜んでいた朧月のジュツ『ムラクモ』だ！
　この間にポンチョを被り直し、ろっこんを重ね掛けする朧月。
　だが、その瞬間をイオリに見られてしまった。
「そこっすね！　食らえっすー！」
　周囲の重力を魔法で操って小石を浮かした。
「いっくぜー！」
　イオリがろっこん『ポッピング★グラビティ』を発動させ、自分に掛かる重力を増やした。
　バットから伝わる重衝撃が、浮かんだ石を打ち付けて榴弾のように発射された！
（危なっ！　忍術『ヒトタテ』！）
　コスモスが朧月の目の前に瞬間移動！
　飛んできた小石がおでこにクリーンヒット！
「痛い！　なんでいきなり瞬間移動したんだ！？」
「忍者のせいだ！」
　スノウが叫んだ。
「そうなのね！」
　女王も納得していた。
「おい、私を忘れるなよ」
　フェニックスの踏み込み居合が女王を捉えた。
「させない！　『もちぎょ』！」
　コスモスの魔法の花弁の刃が幾重にもフェニックスを襲う！
「イヤーッ！」
　やむなくフェニックスがこれを緊急回避！
「！？　なんだこりゃ？　お花畑が……すごく幸せな気分……！」
「どーだ！　この魔法は攻撃対象に心が洗われるような綺麗な花畑に見える幻覚をみせるんだぞ！」
「って、私は忍者だから効かねぇ！」
　フェニックスは幻影を振り払った。
「なぁ、誰か、物を壊してくれよ。物を弾き返す音は破壊音じゃねぇんだ」
　スノウの魔法は、ろっこんとリンクしている。
　破壊音を聞かないと発動ができないのだ。
「仕方がねぇ、氷雪系魔法だ！　魔剣クロウカシスよ、斬り裂け！」
「イヤーッ！」
　フェニックスは絶対零度の斬撃を神速の居合で相殺！
「おいおい、不死鳥相手に氷魔法とか、なめてんじゃねぇのか？」
　フェニックスがせせら笑う。
「剣技なら負けない！」
　ノーラのスターブレード二刀流！
　清流のような剣技でフェニックスに対抗！
「そっちが２本なら、こっちも２本だ」
　フェニックス、分身の術！
「ほらほらほらほら！　左右同時攻撃だぜ！」
　これにはノーラも押されていく。
「スノウ、援護するぞ！」
「合体魔法だ、コスモス！」
　２人は魔力をシンクロさせて技を放った！
「「フラワーブリザード！」」
　氷の柱を花の刃で切り刻み刃と雹の嵐を起こす桜吹雪の合体技！
　砕け散る氷の音が、スノウの魔力を高める！
「グワーッ！」
　分身のフェニックスは桜吹雪に巻き込まれ、その場で爆発した。
「よし、一気に押し切るぞ！」
　スノウの声に、魔法少女たちは攻勢に出る！
（このときを待っていたんよ、女王から意識がそれる瞬間を！　行け、下忍たち！）
　朧月の撒菱スリングショットが女王にヒット！
　彼女の悲鳴が合図となり、下忍たちが女王の身柄を確保して攫っていった！
（フェニックス、今は引こうじゃん？　態勢立て直すのさ）
　テレパスジュツで指示を出されたフェニックスは舌打ちしながら雲に紛れていった。
「待て、逃がすか！　って、いててて！」
　スノウたちの足元には、いつの間にか撒菱が撒かれていた！
「なんてことだ……。女王が誘拐された！」
　コスモスが落胆してしまう。
「相手が一枚上手でした……。イオリさん、この事を闇の皇帝に知らせて下さい」
　ノーラがイオリの手を握りながら頼み込んだ。
「女王を助けられるのは、皇帝だけです！」
「……分かったっす。今すぐ戻るっすー！」
　イオリは魔法で自身に掛かる重力を減らすと、跳躍して宇宙遊泳のように空を飛んでいった。