ぺちゃくちゃ、むしゃむしゃ｜リアクション

ぺちゃくちゃ、むしゃむしゃ

　夏の日差しに負けない笑顔で茶会は進行した。途中、飲み物や食べ物の不足を心配した信彦が自慢のブラックカードを取り出した。
「レディの皆さん、この俺になんでも注文してくれ」
「皆で海を満喫したいから、八人乗りのプレジャーボートを頼む」
「そうそう、ばかー。やがみんのばかー」
　信彦の余裕のない返しが周囲を爆笑させた。
　太陽が赤く燃える頃、澄佳が会の代表として一同の前に立った。
「せ、晴天に恵まれた今日、み、皆さんとお会いできたことととは」
　極度の緊張が舌を縺れさせる。七瀬は肩をほぐすような動作をした。握り拳を作って見詰める者もいた。
　澄佳は大きく息を吸って吐いた。
「みんなと会えて、あたしは嬉しかったよう。どうもありがとうでした」
　惜しみない拍手のあと、各々の帰り支度が始まった。
　別れ際、瑞穂は周囲に向けて言った。
「訛ば気にしせんと話せる会っちゅうんは面白かね」
　夕陽に染まる顔で笑う。
「あたしは会の一人だけど今日は楽しかったよ。一緒に食べたお菓子はとても美味しかったなあ。それと、沖縄弁なんだけど、周囲の人に理解されないから使わないんじゃなくて、誰かに甘えたくなっちゃうから」
「そっかー。いいんだよう、甘えたい時には甘えても」
　側にいた澄佳が、えへへ、と照れたように笑った。
　鳴は笑顔を振り切るかのように走り出した。振り返らずに声を張り上げる。
「うたいみそーちー、またやーさい！」
　頭の麦藁帽子を片手で押さえたまま、旧市街の方向に消えていった。
　困惑した様子の澄佳に舞華が近づく。
「お疲れ様、また会いましょう、という意味ですよ」
「ふへ、そうなんですかあ」
「そうです、キャラ愛があればわかり合えます」
　舞華は猫耳のメイド姿で親指を立てて見せた。

　その日の晩、ネコネコ動画の生放送で舞華が八つ橋の作り方を実演した。合間に軽妙な話を挟み込み、締めの台詞に入った。
「方言は田舎臭いといわれますが、その田舎らしさがいいのですよ。皆さんも、たまには実家にお帰りになっては如何でしょうか」
　片方の掌を上に向けて愛らしく微笑むと、視聴者から絶賛の声が届けられた。画面から見えないところでは、しっかりと親指を立てているのであった。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：黒羽カラス
ファンレターはマスターページから！

　私が選んだ題材にもかかわらず、今回は方言に苦戦しました。現地の言葉に近くなる程に日本語の意味が離れていきます。
　方言を喋りながら日本語の解説をするにしても、あまりに過ぎると不自然になりますよね。
　大いに悩みました。更には同じ県でも微妙に使い方が違っていたりします。もう、いろんな言葉が混ざり合って混沌を覗いているようでした。
　方言と標準語に揉まれた結果が今回のリアクションになります。どのような味わいを読む人に与えるのでしょうか。
　おいしくいただけることを祈りつつ、今回の話の幕とします。

　参加してくださった皆様、本当にありがとうございました（ふへぇ～）。

↑ページトップに戻る