寝子島書房『寝子島の不思議』　～海猫様と海鳴り～｜リアクション

寝子島書房『寝子島の不思議』　～海猫様と海鳴り～

【探検隊？　――22時30分】

「いやー、実際こういうの目の当たりにするとほんとテンション上がっちゃうな！」
　上機嫌で小さな祠を次々と探検しているのは、晴海飛鳥である。
「海猫様の伝承はばあばから聞いたことがあった気がするんだけどさ、何となくというかフィーリングというか！　びびっと来て見たらこれだよ！　今この怪奇に立ち会えた幸運！　この幸運を生かさないとね！」
　そう言って探索用の懐中電灯を点ける。
　小さな祠は、簡素な作りである。
　よく、道ばたであるような道祖神を祀る小さな祠と似たような作りをしており、その中に海猫様を模した石像が祀られている。
　ただ、いくつか飛鳥は不思議な部分に気づいた。
「これは……？」
　そう言って、海猫様の持っているなぜか底の開いた柄杓にふれようとしたときであった。
「海猫はカモメの仲間なのだ鳥なのだ！　なのになんでおネコ様なのだ？　これは謎なのだレッツ探検なのだ～♪」
　という元気な声が聞こえて、ばったりと二人は出会った。
「あ」
「こんばんは、なのだ～」
　ちょっと特徴的な口調で挨拶を返したのは後木真央である。
　真央は、猫集会を探すという深夜徘徊の途中でこの現象に出会ってこちらにやってきたようだ。
「こんばんは！　今日は絶好の探検日和だね！　そちらも探検かい？」
「むっ、真央ちゃんは、午前中に部活がない時は毎晩深夜徘徊しておネコさまの集会場新規開拓に勤しんでるのだ♪　早朝寮に戻って畑に水撒いてお昼まで寝て、午後から部活行ってバイト行って深夜徘徊して……」
　と、一気に説明を始める真央。
「つまり、深夜徘徊なわけだ」
「略されたのだ！」
　しかし、その怒濤のごときトークは飛鳥によって流された。
「さ、ミステリーを存分に味わおうじゃないか！　具体的にはあのおおきなほこらで！」
「ちょっと、真央ちゃんもあれが気になっているのだ！」　
　そうして、二人はおおきなほこらへと向けて歩いて行った。

【出会いは唐突に　――22時30分】

（そういえば猫又川の上流には猫又センリの宿る祠がある。山猫と海猫の祠は何か関係があるのか？）
　そう考えながら、民谷鋭二は逐一状況のメモを取っていた。
　それに声をかける人がいた。
「民谷！　そちらも来ていたのか！」
「龍目さん、そういえば探検部でしたね」
　始めに声かけたのは龍目豪。一応、先輩なので鋭二は敬語になっている。
「今回は、じっくり探検できるかもしれないしな！　……それにしても海が割れるとはな。なんだか現実のこととは思えないな……」
「だからこそ、面白いですね。実際、伝わっている話が目の前で現実になりつつある……」
　豪の言葉に、鋭二が感慨深くつぶやく。
　昔、聞いた語りのどこかに、そんな話があったのだろうか。
「うむ、探検部としても気になるじゃん？」
　そう言って、豪はふとおおきなほこらの方へと視線を向ける。
「……とりあえず、何か情報があったら教えてくれないだろうか？」
　そこからいったん視線を外しつつ、豪は鋭二に聞く。
　鋭二は頷き、持っている情報……そう、海猫様の話を提供した。
「なるほど」
　その話を聞いた豪は頷いて、おおきなほこらを指し示した。
「じゃあ、あそこへ行ってみよう。何かしら得られるかもしれないな！」
　豪のその言葉に頷いた鋭二と共におおきなほこらに向かうのであった。