寝子島書房『寝子島の不思議』　～海猫様と海鳴り～｜リアクション

寝子島書房『寝子島の不思議』　～海猫様と海鳴り～

【出会いは唐突に　23時】

「ったく、どうなって――んぉ？！」
　それは楓がほこらから出た瞬間であった。
「――敵かッ！」
　即座に戦闘態勢へと移行した刀とエンカウントした。
「って、待って待って！　その人味方！」
「なんというか、びっくりね」
　円が慌てて止めに入り、ブリジットがやれやれと大きなほこらから離れる。
「このやろっ！」
　楓が逆に反撃しようとした瞬間。
「「おわーっ！！」」
　男二人と衝突した。
　豪と、鋭二である。
「こんがらがっているのだ！」
「こんなに人がいたんだ。これもミステリーだね！」
　真央と飛鳥がひょいと倒れている豪と鋭二を避けて通り、ほこらから離れる。
　ついでに、円も刀を連れて少しだけ距離を取る。
「――んのっ！　いい加減にしやがれっ！」
　豪と鋭二を転がして、楓が立ち上がった瞬間。
　ごちんっ！
「「「～～～っ！」」」
　修と楓と洋志がぶつかる。
　入り口付近で一斉に人が出てきたためただいま大惨事である。
「わわっ、怪我してない？　大丈夫？」
　美咲紀がそう言って駆け寄ろうとしたが……。
「きゃっ！」
　つるっとそのまますべって後ろに倒れそうになる。
　ばふっ！
「きゃんっ！」
「――今日はよくよく他人を助ける日だね」
　そのまま月詠の体へと倒れこむ感じになった。
「と、とりあえず早くどかないと……！」
　綾花の言葉に全員が慌てておおきなきなほこらから離れる。
「――もう、大丈夫のようだな」
　修のその言葉でほっと息を吐いた。

　落ち着くのもつかの間、上の方から声が聞こえてくる。
　その光景を発見した誠也が、上へ上がるように呼びかけているのだ。
　その隣には、慌てて駆けつけた徹也の姿もある。
　心なしか、周囲が明るい……そして……。
　波が、少しずつ戻って言っているのだ。
　慌てて全員が、何とかエノコロ岬にあがったときには、海はほとんどの場所を飲み込んでいた。
「見てみるっすよ！」
　誠也のその言葉で、全員がじっと海を見てみる。
　それは、光の乱舞であった。
　海の上を大小様々な光が飛び交っており、時折、その光を目当てに跳ねる魚が描く曲線と、飛び散る海水のしぶきが何とも美しい。
　それらは、ゆっくりと淡く光る月光でさらに照らされており、二つの光が海の上には存在した。
「綺麗……！」
　ぼそり、と美咲紀がつぶやく。
　光は、まるで蛍のように飛び交い、そして一斉に海の中へと消えていく……。
「寝子島書房……すげぇ」
　刀は思わずそうつぶやいた。
　スゴいのはこの現象だが、目の前の出来事に完全に皆目を奪われていた……。

　そうして、夢遊病者のように全員はふらふらと家へ帰った。
　不思議と、その日のことは鮮明におぼえている。
　だけども、なぜ、どうして……それらはさっぱり分からないままだ。
　そう、最後の光景ですら、写真ではなく心の中にあるのだから……。

　おわり

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