寝子島書房『寝子島の不思議』　～海猫様と海鳴り～｜リアクション

寝子島書房『寝子島の不思議』　～海猫様と海鳴り～

【この現象は？　――22時30分】

「音声レコーダやデジカメがバグるので、超常現象と逆に断定できるな」
　そう断定したのは八神修である。
「猫と言えば航海の安全を護ってくれる、転じて大漁ももたらしてくれるという、ありがたーいご利益をもたらしてくれる神聖な動物なのですよ！　つまり神聖さと超常現象が合わさって生まれるこのミステリー！　取材のし甲斐が……」
　そう言って、気合いを入れようとしている椿美咲紀の足下から、虫っぽいものが這い上がる。
「いやぁぁぁぁぁぁむぅぅぅしぃぃぃぃっ！」
　その感触に思わず美咲紀が悲鳴を上げた。
「なう！」
　ぺしっと肉球パンチが放たれる。
　その虫のような（多分フナムシかもしれない）生物は、修の飼い猫のタイガによって払われた。
　誇らしげに鳴いたタイガを、美咲紀はよしよしと撫で、タイガは満足そうに声を上げた。
　なお、修と美咲紀は二人とも新聞部の部員である。
　ちなみに、そんな美咲紀を見て、タイガがついてきた理由はひょっとしてこれかもしれないと同じく虫が苦手な修も思うのであった。
「悲鳴が聞こえましたが！？」
　そう言って、その場に駆けつけたのは松谷洋志である。
「「いや、虫が」」
「……そうですか」
　同時に答えた修と美咲紀に洋志はやれやれとため息をついた。
　なんとなく察したのだ。
「気を取り直してレッツ、取材よ！」
　そう言って、気を取り直した二人と、胸を張って歩く一匹と、来てしまった一人は海底であった場所を歩きつつ探索する。
「……まるで、生きているみたいだな」
「そのまま残ってしまったという感じでもありますね」
　修と洋志がそのまま残っているイソギンチャクやらを見てそんな感想を漏らす。
　それとは別に、美咲紀はこの現象について考えている。
「海とはとても関わりが深い動物なのです。だってお魚たっぷり採ってきて貰わないとおこぼれに在りつけないじゃないですか。それはそんな港猫ちゃん達の純粋な願いが神格化という結晶に昇華された物なのですよ！」
　やがて、いくつかの小さな祠の道祖神の調査を終えつつ、最後に残った大きな祠と向き合う。
「……誰かが通った跡がありますね」
　祠の入り口を調べている洋志がぽつりと言う。
「とりあえず、寝子高新聞部として見過ごしておけません。不思議大好きとしてももっと見過ごせません。取材をしなくては！　例え何いようと！」
　そう言って、ずんずん歩いて行く美咲紀。
「……」
　修はだまってそれに続く。先ほどから法則性やら規則性やらを見つけ出そうとしているが、そろそろ頭がショートしそうである。
　そういったものがあるかもしれないし、ないかもしれない。
　この絶妙な配置と意味深な夜故に、修は考え込んでしまったのだろう。
　こうして、三人はおおきなほこらの中に足を踏み入れた。

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