寝子島書房『寝子島の不思議』　～海猫様と海鳴り～｜リアクション

寝子島書房『寝子島の不思議』　～海猫様と海鳴り～

【海壁　――22時30分】

　本田誠也と馬場園徹也は、割れている海面の部分でばったりと出会った。
　観察という同じ目的で割れている海面を歩いて観察していたところをばったりと出会ったのである。
「こんばんは、変な感じっすね。ここ」
　そう言って、海水に触れてみる誠也に、徹也は挨拶を返す。
「こんばんわ、何か変わった魚が泳いでいるかもしれないっすね！」
　ほぼ同じ口調ではあるが、テンションが高い方が徹也であり、誠也は落ち着いた感じで返す。
　徹也のほうは、この怪現象にテンションが上がっており、口調も熱っぽくなる。
「ちょっと照らして見るっすよ」
　誠也が海の壁を眺め歩き、懐中電灯を向けて奥まで照らしてみる。
　ゆらりと、懐中電灯に照らされる海の壁……そこには、ごくあたりまえのように夜の海が漂っていた。
　しかし、いくつか奇妙な事がある。
「……これは！」
　徹也が気づくと、慌てて携帯を取り出す。
　圏外の表示も気にせずにパシャリと一枚とるが……。
「……だめっすね。どうも機械類はダメみたいっす！」
　ぐしゃぐしゃになった画像を誠也に見せる。
　そう、二人が見つけた者は奇妙な現象……海の中からこの海域を囲むようにさまざまな魚が泳いでいることであった。
「こうなるから海猫様を置いたのか、海猫様を置いたからこうなったのか、分からないっすね」
　誠也はそうつぶやきながらその光景に見入る。
　恐ろしいのか、不思議なのか……。
　徹也もそうだが、まるで畏怖と憧憬が合わさったような感情が生まれ、もやもやと二人を包み込んだ。
「海猫様っすか？！　なんかスゴイ神様っぽいっすね……？　そういえば祠だらけっすよね！　ここ」
　そう言って、徹也はそんな雰囲気を振り払うようにことさら元気に発言する。
「ダメっすね。その祠も全部歪むっす。ほら」
　誠也がそう言いつつ見せた携帯の画面はどれも亀裂やノイズ、それとも暗号がばらばらになったような……そんな感じに風景がゆがめられ、まったく判別はつかない。
　ぼんやりと携帯の光が、暗闇に浮かび上がり、その小さな光を目当てに数匹の小魚が通っていく。
　祠の方にはいくつかの光点があり、自分たちの他にも探索する人が居るのだろう。
　とりあえず、見るものは見て、さてどうするかと二人は考える。
（とりあえず、お土産は出来たし、帰っても良いっすよね……？）
　徹也はそう思い、ちらりと歩いてきた場所に顔を向ける。
（明日は昼から講義か……超めんどくさいっすね……はやく帰って寝たいっす。……まぁ、ぶっちゃけ講義に出る気はまったく無いんすけどね）
　心の中で色々と思いつつ、徹也は誠也に声をかける。
「俺はここで帰るっす。そちらはどうするっすか？」
「もう少し見て回って、何もなければ帰るっす」
　そう言って、誠也は水で濡れた手をタオルでぬぐいながら答える。
「そう……気をつけるっすよ」
　そう言って、徹也は来た道を引き返し。
「そちらもっすね」
　誠也はしばらくその場にとどまり、何事もなかったのでそのまま帰宅した。

　なお、写真は後日色々な手段で鮮明になるように試みたものの、はっきりと何かが分かるようなものはなかった。
　怪写真としてそれらの写真は話題にのぼっていくことになった。

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