●超空対戦！！　謎の少女VSマヌカノイド隊●



「あははっ！　ちょっとやりすぎちゃったかなぁ」
　アリスの手を引いて、塔を脱した少女は空を泳ぐように飛んでいた。
「でも、おっきな塔がバリバリーって割れちゃうのは面白かったよ　面白かったよ！　……アリス？」
「……わたし」
　戸惑い、悲しみ、恐れ。
　俯くアリスの顔にそんな色を感じた少女は、宙に浮いたまま彼女と向き合った。
「だーいじょうぶ！　アリスはあたしが守ってあげるから。守ってあげるからね！
　ぜったい、死なせたりしないんだから！」
「お姉様……」
　アリスは潤んだ瞳で少女を見上げた。
「エレノアが怖いなら、あたしとずっと一緒にいようよ。アリスと一緒なら、きっと楽しい！」
　そう笑って、少女は空中遊泳を再開する。
「自分の好きに出来るからって、勝手に殺しちゃダメだよね。……んん？」
　少女が何か閃き掛けた瞬間、アリスが慌て出した。
「待って、お姉様……前っ」
「まえ？」
　少女が首を戻すと、前方にふわふわ飛んできた赤い風船が突然膨らみ始めた。
「わあ、うわあ、なにこれ！？　なにこれぇ！？」
　瞬く間に巨大なタコに変わった風船が、少女たちに襲い掛かる。

「上手く注意を引けたみたいね」
　焔のアバターが乗った戦闘機型オブジェクトの両翼には、複数のマヌカノイドたちの姿があった。
　更に上空で、少女は自分たちを捕まえようと足を延ばすタコの攻撃を野生の獣のようにかわしている。
「きゃんっ」
「アリス！」
　アリスが退いた先の雲が、トリモチのように彼女に纏わりついて動きを封じる。
「後で助けるから！　待ってて！」
　少女は再び金の光を纏い、タコに向けて電撃のように放出した。
　落下していくタコの丸焼きと入れ違いに、今度は近くの雲から足の長い巨大蜘蛛がぬっと現れて糸を吐く。
「まだいるの？　もうっ！」
　少女が蜘蛛と交戦している間に、焔率いるマヌカノイド隊は準備を整えていた。
　実はタコも蜘蛛も、彼らの汗と涙の結晶だったのだ。
　……汗はかかないし、涙を流す機能がないのもいるのはご愛嬌！

「みんな、作戦通り配置についたわね？

　『お仕置き作戦カッコカリ』第二陣、レディ・ゴー！！」

　蜘蛛の陥落を見計らった焔の号令で、マヌカノイドたちが一斉に飛び立つ。
「えーっ、なんでなんで！？」
　思わぬ相手の登場に、少女は目を丸くした。
「ひとりや二人じゃ敵わなくても、みんなで行って手数で押せば……ってね」

　モニター越しに、焔は口端を釣り上げる。
　マヌカノイドたちがイメージを練り上げて放つ瞬間、少女は素早く避けて反撃を繰り出す。
「……惜しい、でも良いとこまでいってたわ。諦めないで！」
　ツルツルのマネキン人形やコケシなど、動けない妙ちきりんな物体に変えられたマヌカノイドたちが落ちていくが、複数の方向からの攻撃に注意を払わなければならない少女にも隙が生じた。
「くっ、でも負けないんだから！」
　ギリギリでかわした少女が反撃の為集中した直後、

　キイィィィ……ン！

「脇が甘いわよ！」
　焔の戦闘機が空気を唸らせ突っ込んできた。
　なびく炎のような髪が映える濃緑の軌跡と交錯し、跳ね飛ぶように避けた少女の身体が金の光に包まれる。
「もー！　邪魔しないでっ！」
　遥か空を旋回する戦闘機の行く先を狙い、力を放とうと――
　プスッ。
「う、ウソ～！？」
　掌の前に集まり掛けた力は、燃料を失ったように消えてしまった。
　少女が目を白黒させている間に、バニーガールのマヌカノイドが死角から迫る。
「あっ……！」
「お姉様っ」
　とうとうマヌカノイドが放った術が、少女を捕えた。
　ぽんっ、と少女が変化させられたのは、カラフルなエリマキトカゲ。
「なにこれ　なにこれ？」
　自分の全貌が確認できず、少女は自分の尻尾を追ってくるくる回って。
　彼女は自分の力で元に戻る事だって出来るけれど、マヌカノイドたちも果敢に攻めていく。
　テディベアやペンギン、まっ赤っ赤な狸など、次々姿を変えられていく少女。
「ふふ、当人もこれだけ色々なものに変身させられたら、少しは……」
　髪を掻き上げ、不敵な笑みを浮かべた焔の表情がサッと変わる。
　次に少女が変えられた姿は――ハハッ♪
「そのネズミはッ、マヌカノさんソレに変えちゃダメー！」
　ちょっと遅かったね、ハハッ。
「大変、このままじゃ恐ろしいコトになっちゃう……早く他の姿に変えましょう、出来れば動けないやつ！」
「っていわれても……」
「ごめん、私これ以上思い浮かばないわ」
「ネタを、ネタをくれぇー！」
　みんな頑張ったお陰で、ネタ切れのようだ。
「な、何か他にイメージを補充するもの……」
　考え込む焔の耳に、チリンチリンと近付くベルの音。
　画面には空を飛んでやってくる自転車の姿が映った。
「遅くなりましたニャー」
「ちょっと通りますニャー」
　猫運転手さんが漕ぐチャリンコの荷台に立ち乗りした猫車掌さんが、気合でイメージを捻り出して放つ。
「寝子・真ッ・史具らっ！」

　ポンッ☆

「どええええぇぇー！？」
　一抱えもある猫缶に変化させられた少女は、ひゅるると空を落ちていった。

　テレッテッテテッテテッテテー♪
　お仕置きカッコカリ・みっしょんこんぷりーと！！

「あの方、どうなったかしら」
「それ、追い掛けろー！」
「ううっ、お姉様ぁ～」
　無事なマヌカノイドたちが一斉に急降下を始めるのを見送りながら、焔はトリモチにベッタリのアリスを助けに行くのだった。