異界の願い　～騎士アルバート～｜リアクション

異界の願い　～騎士アルバート～

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第七章
「立ち向かう力」
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黒炎はゆっくりとだが、確実に砦へと向かっていく。
地を削り、人も魔物も消し飛ばしながら。

訪れるは悲劇。
訪れるは絶望。
訪れるは終末。

黒炎は進む。ただゆっくりと。無慈悲に。

戦場で彼……内藤武諭が佇んでいた。黒炎を前に迷いが生じたからである。
逃げるべきか。それとも……。
自分一人が向かった所で何ができる。無駄だ。逃げよう……そう思って砦を見た時、戦いの前に
会話した楽しいやりとり、そしてあの砦で笑っていた人達の顔が浮かぶ。
逃げようとした彼の足が止まる。
自分には……あれをどうにかできるかもしれない力がある……ならば使うべきではないのか。

「柄じゃないな……まったく」
「おい、戻れ！　おいっ！！」

カーターの静止も無視し、内藤は走っていた。黒炎に向けて。

黒炎の前に立ちふさがり、彼は左手をかざす。その腕から輝く盾が出現し、その大きさを増した。
彼の皆を守るという意思と……黒炎が激しくぶつかり合った。
まるでトラックにでも衝突されたかの様な激しい重さと衝撃が彼の身を襲った。
少しでも気を抜けば黒炎に吹き飛ばされ、跡形もなく消されてしまうだろう。
地を踏み締める足が、次第に後ろへと下がっていく。衝撃に負けてきているのである。
更には黒炎の放つ熱量が彼の体力を容赦なく奪っていくのであった。

砦の屋上に出た八神はその光景を目の当たりにした。
たった一人の者が黒炎に立ち向かい、必死に守ろうとしている。
静かに彼は手を握り締め、全軍へと指示を飛ばした。

「砦に向かっている炎だが……いま一人の勇敢な者が立ち向かっている。それを救援せずして何が騎士か！
　動ける魔法隊、及び魔法が使用できる者は炎に向かって氷の魔法を放て！
　いいか、ここで彼を死なせる事は、……騎士の誇りが死ぬものと同義と心得よ！！」

内藤はそろそろ自分が限界である事を悟っていた。
よくやったと思う。一人でも多く逃げることができただろうか。
砦を守るという目的は失敗してしまうかもしれないが、護って死ぬ……いかに騎士らしい最後だろう。

（このまま死んだら、本当の意味で騎士になれるのかな……）

諦めかけた内藤に魔法の飛ぶ音が聞こえた。見れば砦や自分の周りから幾重にも魔法が飛んでくる
ではないか。無数の氷の魔法や魔法弾が黒炎に向かって飛んでいる。
更には治療部隊から回復の魔法が自分にかけられているのが分かる。

（そうか、まだ……終わっちゃいない！！
　みんなの意思、しっかりと受け取った！）

守る意思、戦場の皆の意思が彼を介して一つになった気がした。
人間の大きな意思の力は時として奇跡を引き起こす。
絶望を覆す力……それこそが人々の意思の力なのである。

白い光が次第に強くなり、内藤の盾の輝きが増し……激しく輝いて閃光を放った。
光に視界が塗り潰され、当たりは白一色となった。
色が戻り、視界が元に戻った時……そこに黒炎の姿はなくなっていたのである。
そう、人々は黒炎に打ち勝ち、この戦いの勝利を得たのであった。

力を失う様に倒れる内藤の耳に歓声が聞こえる。
みんなを救えた事に安堵して空を見上げて彼は笑った。

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