シーサイドタウン二丁目『オカマバー・ネコ』｜リアクション

シーサイドタウン二丁目『オカマバー・ネコ』

●ショータイムは書き入れ時！

　華やかなショーの音楽は、お店の前に居ても漏れ聞こえてくる。
　その時間こそ書き入れ時。オネエたちは警察の御用にならない程度に声をかけ、興味がある人もない人もお店の中に放り込んでいた。
「飲み放題ですか」
　その中のひとりが広瀬拓夢だった。
　お酒はあまり強くない拓夢だったが、キャバクラというものがいったいどういうものか、興味がまったくないわけではない。
　どうしようかと悩んでいると、近くを通りがかった久保田美和が半ば強引に店に連れて行かれている。
「え、え、私!?」
「こんな時間にひとりなんて、かわいそう～アタシたちが話聞いてあげるから」
「べ、別になんにも可哀想なことなんて……」
「はいはい、後は中で話しましょ♪」
　美和はあっという間にドアの向こうに行ってしまった。
　女性がキャバクラ。
　いったいなにをするのだろうか？
　もうひとつ惹かれるものができた。
　拓夢は財布の中を覗く。
(足りますね……)
「男ひとりですが、いいですか？」
「はぁい！　おひとり様ごあんなぁい♪」
　こうして気まぐれで、拓夢はピンクの館に足を踏み入れた。

　同じ頃ジニー・劉もあてもなく、二丁目を歩いていた。
　馴染みの店があるわけでもないが、ジニーの仕事柄、顔見知りも多い。
　ほどほどに挨拶を交わしながらふたふたとしていると、そのうち『ネコ』の前に辿り着く。
「あら、劉ちゃんいいところに！」
　誰だっけと返す暇さえ与えられずにゴリラ系オネエに裏口に引っ張られる。
「お、おい、なにすん、」
「調子乗って呼び込みすぎちゃって、人手が足りないのよ。もうすぐ裏仕事の子も帰っちゃうし」
「いや、だからなんで……」
「劉ちゃんってほら、化粧映えするタイプよね。というわけで手伝ってくれない？」
「は？」
　呆然としているとあれよあれよと連れ込まれ、更衣室にこの獣系オネエと一対一になってしまった。
「お金は弾むから♪」
　含みのある言い方をするオネエ。
　サっと顔から血の気が引いていき、手足が熱を持つ。
「あ、こら！」
　ジニーは本能のままに、全力で逃亡をはかるのであった。
　まず目指すのは――なんて考える余裕はない。
　近くの部屋、トイレに入る。そして探した。出口になるなにかを。
(あった！)
　慌てて壁をよじ登り、窓に足をかける。
　身軽さを活かしてひょいと乗り上がるが――
「逃さないわよぉ……！」
　けれど乙男の執念には、敵いそうもなかった。
　ズボンを脱がす勢いでオネエはジニーに掴みかかる。
「あーもー」
　ジニーはどうにか振り払い、しかしそこで抵抗をやめた。
「どうせ金欠腹くくるか！」
　眼鏡外してウィッグ付けりゃごまかせる。
　ジニーは、自らの足で更衣室に向かった。
「しっかしまた女物着る羽目になるたァな」
　逃亡中追っ手の目を欺く為に女装して以来だ。
　一瞬思考の世界に入り込むが、すぐに現実を見ることになる。
「おいこのドレス裾短すぎじゃねーか!?」
「あとはチャイナドレスとか、甘ロリとかになるけど……」
　裾が短いドレスorぴちぴちのチャイナorフリルたっぷりロリータ・ファッション。
「っ、じゃあこれでいいよ」
　不承不承頷いて、ジニーは手際よく着替えていく。
(こんなとこ知人に見られたら死んだ方がマシ……）
　着替え終えてホール入り口に立ち、中を見渡した。
「って何でお前らが!?」
　残念なことに死んだ方がましな自体に陥ったようだった。