煙草屋で休憩を｜リアクション

煙草屋で休憩を

　その時、店内に歌が微かに響く。歌っているのは正敏だった。

♪思うようにいかない日もある
でもありのままでいてくれよ
そのままのお前が一番眩しい
胸を張ってくれ
そう、お前はGLITTER！♪

　耳を済ましながら、満月は思う。
（……あれは、もしかして『グリッター』のＭＡＳＡ？！　多少ガタイは良くなってるけど、あの顔立ち、正しくＭＡＳＡじゃないか。夜ごとハコに通い詰めてたし、解散ライブも見に行ったし、見間違いじゃないよ、確かにＭＡＳＡだよ……！　きゃあああ、どうしよう！）
　満月は意を決し、話しかける。
「あ、あのぅ…もしかして貴男はグリッターの――」
　正敏は陽気に応える。
「そうそう、俺はグリッターのMASAだ～」
「……って、アレ？　……もしかして酔ってますか？　あのぅ……」
　へらへらと上機嫌の正敏に満月は戸惑いを隠せない。
「いやー、もうずいぶん昔の話だってのに、よく知ってんなぁオジサン嬉しいぜ姉ちゃ…へぶっ！」
　正敏は満月の腰に手を回したつもりだったが、そこは尻であった。
「てっめぇ、あたしの尻を触るんじゃねぇ！　――きゃぁ！　ごめんなさい、あたしったらすぐ手が出ちゃって……」
「こんなデカパイのねぇちゃんに殴られちゃ癖になっちゃうぜ……ってそれより、えーと姉ちゃんどっかで見たこと……うーんこの年になると物忘れが始まって、シワも白髪も増えて、ついでに体力も落ちて……ってそんな話じゃねぇ！」
「は？　あの……ちょっとちょっと、白髪とか物忘れとかはどうでもいいんですけど」
「あ！わかったぞ！ライブにいつも来てくれてただろ！　常連の顔ぐらいは覚えるさ！そーだ、ここで会ったのも何かの縁だしオジサンタバコでも買ってやろうか？」
　正敏の言葉に満月は顔を輝かせる。
「あっ！覚えててくれたんですかっ！　いや、でもそんな、煙草なんて悪いですよ――って、どうかしたんです？」
「３５円しかねぇ！」
　正敏の情けない叫びに、満月の表情が一瞬でこわばる。
「おにいさんじゅうごさい……じゃなかった、３５円？　いい大人なのに……、ていうかおっさんなのに……コンニャロォ！あたしの純情返せぇええ！！」