煙草屋で休憩を｜リアクション

煙草屋で休憩を

「それでな、ウチの孫の出来の良さと来たら――」
　はぁ、はぁ、と靖史は熱心にメモをとるフリをする。
「孫バカなんだ、そのじいちゃん！　すまんな！」
　と、一義が言う。
「なるほど、これをこうやると火がつくと……」
　徹は珍しい形をしたライターを手にしてしげしげと眺めている。
　記士郎がそのライターの説明をしている。
　煙草の煙と酒臭さを含んだ息遣い、楽しげな会話の声が店を満たしている。そうして当たり前の夜は過ぎていく。
「やれやれ、騒がしくなっちまったよ」
　と瑛華は愚痴って見せるが、口元には笑みが浮かんでいる。
　酔っ払った宮八が大声で、
「誰かお水ちょうだいちょうだい～！」
「おう、まかせろ今俺が――っておォっと！？」
　バケツを持ってやってきた正敏がつまずき、中身を派手にぶちまける。タイミング悪く目の前にいた瑛華はずぶ濡れに。
「お、水も滴るいい女！　昔の映画のなんたらの休日ってやつみたいじゃねえか？」
　と、洋平が囃し立てる。
「っ……！　ちょっとはしゃぎすぎだよ！」
　全員が瑛華に蹴りだされる。夏の夜の少し湿った空気。それぞれ顔を見合わせ、どうしたものか、といった表情をする。
「どうする、どっかで飲み直すかい」
「そうだなぁ、誰かいい店知らんかい」
「それなら僕が」
　と手を挙げる満。
「なんて言って、自分の店に案内するつもりでしょ？」
「僕は僕の店よりいい店を知らないんだ」
　と涼しげな顔で。
「それはちょっといいネタになりそうだ。ぜひ行ってみたいなぁ」
「ああ、もうこんなに遅くなったら娘に怒られちまう！」
「いいじゃねえか、俺なんてさっき電話で、おじいちゃんがいなくて寂しがってるだろ？　って聞いたら『全然ちっとも？』なんて言われたんだぞ！」
「こうなったら徹底的に飲み明かしますか」
　と、めいめいが勝手なことを話しているところへ、瑛華が店から現れた。完全に防寒している。
「夜は少し冷えるね。しかし、なぜだか急にお客がいなくなっちまったよ。今日は閉店さ」
　それから口の端しを吊り上げて、
「おや、奇遇だね。皆さんお揃いで一体何処へ行くつもりだい？」
　そうやってみんなは揃って夜の街に消えていく。酒と煙草の夜は更けていく。しかしまだまだ夜は長い。

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