らっかみさんらっかみさんお越しください！｜リアクション

らっかみさんらっかみさんお越しください！

●理科準備室

　悪霊たちの隙間を縫って、一気に階段を駆け上がる。
　目指しているのは理科室――正確には理科準備室だ。
「っ、」
　しかしその進路を阻むように幽霊たちの数が多くなってくる。
　ああなんて邪魔臭いのかしら、なんて桃川圭花は思いながらもだからと言って引き返すことも出来ないのだ。
「理科準備室ってのはどこだっけか？」
　この状況を厭っているという意味では獅子島市子も同じようだった。
　ただし彼女は悪霊など物ともしないが。
「もうすぐそこよ」
「そうか」
　場所がわからないとは思えないほど、市子は迷わず進んでいく。
　一見気だるそうだが、動き自体に鈍重さはなくむしろ機敏な類に入る。
「……入り口に集まってるね」
　恵御納夏朝がうっそりと呟き「仕方ないな」と志波高久が指を鳴らした。
　高久は巧みに投擲物をなぎ払い、夏朝はイチかバチかで取り出したスマートフォンのライトで悪霊を消していく。
「今のうちに」
　その姿を見れば、言われなくとも安心できた。
　圭花は急いで準備室の扉を動かす。閉まっているだろうが、念のためだった。
(蹴飛ばせば、入れるかしら)
　なんて考えながら戸を開けてみると、意外なことに鍵がかかっていなかった。
「あら？」
　既に誰かが入ったのだろうか、それともなんらかの罠だったりするのだろうか。瞬時に色んな可能性を考えては次の可能性を思い浮かべる。
「んなのはどうだっていいさ」
　そんなぶっきらぼうな言い方が、どうにも心強くて、圭花は「そうね」と力強く頷いた。
　準備室には欲しいと思っていたものがしっかりと保管されていた。
　非常用ライトが二本。それからアルコールランプとマッチ。これで光源の心配はないだろう。鞄の中に入るだけ詰め込んだ。
　それからポリタンク、と水をたくさん。
　この事件の原因がなにかはわからないが、水はなにかと役に立つ。
　最悪、鈍器として使えばいい。高久にお願いして運んでもらおう。
　そして最後に塩の袋を手にとった。
(清めの塩として使えればいいのだけれど……)
　気休めでもいい。そう思いながら圭花は自分の肩に塩をふりかけた。
(で、あとは場慣れしてそうな人がいてくれればと思うけど……)
　などと思いながら圭花は部屋から廊下を覗き見る。
「スマフォでも結構いけるみたいだね」
　ねこったーは繋がらなかったんだけど。
　ぽわんとトボけた表情で、てきぱきと夏朝は幽霊たちを成仏(？)させていく。
「無理はするなよ。困ったらちゃんと頼れ」
　飛んでくる本をポリタンクで叩き落として、高久は余裕のある笑みを浮かべる。
「さっさと行こうぜ」
　市子はランプで幽霊を焼き祓う。
　この人たちとなら、大丈夫。
「そうね。……頼りになるわ」
　圭花もライトを突き出した。
「……あたしも素人すよ」
　市子はつんけんと言う。
　その言い方や空気に圭花は不思議と安堵するのだった。