らっかみさんらっかみさんお越しください！｜リアクション

らっかみさんらっかみさんお越しください！

●光る教室

　どうにか幽霊たちをかいくぐり、最初に怪しげな光る部屋に辿り着いたのは響タルトと椿美咲紀だった。
　恐る恐る戸に手をかける。遠くから見た時と違い、扉は光って見えることもなく、本当にここで合っているのか不安に駆られるほどだ。
　けれど開けなければこの先どうするべきかはわからない。
　タルトと美咲紀は覚悟を決めて戸を開いた。
「佐藤さん、と神辺さん……？」
　美咲紀が最初に見たのは、楽しげに床に転がる神辺こゆみと、本をちぎってちぎってと繰り返す佐藤良守の姿だった。
「わ、宮祀さん!?」
　そしてタルトは美咲紀の肩越しに、部屋の奥で倒れている宮祀智瑜を見つけた。
　彼女のまわりには悪霊たちが集まっていて、取って食おうとでもしているのだろうか。少なくとも彼女たちの目にはそう映った。
「おともだちだぁ～！」
　こゆみの瞳がふたりの姿を捉えた。「ホントだね」良守も同じく。
「一緒に遊ぼ？」
　こゆみと良守は立ち上がり、じりじりとふたりににじり寄ってきた。

　なんで僕がこんな目に遭うんでしょう。その上、麦穂さんまで幽霊になってしまいました。
　ああ、もしかすると僕も同じようになってしまうのでしょうか。
　それは勘弁して下さい。本当に。
　あ……でも、待ってください。
　考えてみれば自分も幽霊になってしまえば怖くないんじゃないでしょうか。
　それはいい考えかもしれません。
　そうですね、そうしましょう。
「これはね、ちょっとした特殊能力みたいなものなんだよ」
　つまり誰にでも出来ることではない。
　安芸麦穂が困ったように眉を下げた。
　言外にそう言われ、アルヴィス・ビスコンティはがっくりと肩を落とした。
　そんなコント地味たやりとりのお陰で多少は恐怖心が拭われ、気が付くと彼らも三階端の部屋のすぐ側に居た。
「……戸が、開いてるね」
　ジャンヌ・クローデルが警戒するように小さく俯いた。
「何かあったら私が盾を作るから、離れないでね」
　霧切翠子は……少し張り切っているようだった。
(翠子さんも特殊能力が使えるんですね)
　アルヴィスはほんの少し羨ましく思いながら、そっと扉の中を覗きこんだ。
「誰かた、助けてよぉ！」
「何がどうなってるのですですっ!?」
　その時ちょうど、こゆみと良守がタルトと美咲紀に襲い掛かるところだった。
「たたたた、大変で、」
　すよ。
　アルヴィスが言い切る前に、それぞれが動き出した。
　麦穂は――もう既にろっこんの力は切れている――鞄の中から、レーザーポインターと手鏡を使い、器用に悪霊たちに光を当てていく。
　そんなものがあるなら初めから塩など撒かなければいいのに、なんてとてもアルヴィスには言えなかった。
　ジャンヌはドロドロとしたものに命じて――ラグエルというらしい――ようすのおかしいこゆみと良守の相手をし、翠子はというと、すかさずろっこん：バシリカを発動させ、美咲紀とタルトを保護する。
　そしてひと通り皆の動きを見届けたアルヴィスは、懐からロザリオを取り出して、「主よ我らを憐れみ給え」とひたすら神に祈るのだった。

　続いてこの場に辿り着いたのは八神修と碓氷真理だった。
　修が動く前に真理は「っち」と舌打ちをして、すぐさまジャンヌの援護に回った。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
　掛け声と共に空を切る。
　それから手で印を結び、同時に「おん・きりきり、おん・きりきり」と呪文らしきものを唱えていった。
(あれは……)
　修も知識で、しかも多少知っている程度のものだが、真理がこゆみと良守を助けようとしているのはわかった。
　修は物を投げつける霊たちに向き直る。
「幽霊は分解できないが、これは任せておけ」
　と飛んでくるものすべてを分解して、真理の邪魔になるものすべてを壊した。
「おん・きりうん・きゃくうん！」
　真理の声がひときわ大きくなる。
　こゆみと良守の動きが止まった。
　そして悪霊を祓うのと同じように、ふたりに憑いたものを真理は祓うのだった。
　また、真理がそうしている間にこの異空間に居るもの全員がこの部屋に辿り着いた。