らっかみさんらっかみさんお越しください！｜リアクション

らっかみさんらっかみさんお越しください！

●北校舎

　北校舎ではなく、そこにすぐ向かえる渡り廊下に晴海飛鳥はいた。
　ぴょこんと跳ねた前髪を邪魔にならないように横に流すと、悪霊たちに気が付かれないようにそっと北校舎の中に侵入した。
　その時、悪霊のひとりがゆったりと体を動かして振り返った。
(おっと、危なかった)
　飛鳥は既のところで身を隠して、息を止めた。
　こんなギリギリの状態でありながら、飛鳥の表情には恐怖の色はない。
　あるのは好奇心とロックな心だけ。
　それも仕方がないことかもしれない。
　今回は彼女が自分から怪奇事件に突っ込んでいったのではなく、意図せず巻き込まれたのだ。
　普段とは違った――いつもは自分からあれこれと事件に首を突っ込み、ロマンを追いかけている――刺激に身を躍らせ、飛鳥は再び霊の隙を突いて動き出した。
(えーっと、)
　そして向かうのは用務員室である。
　彼女も既に幽霊たちの特徴と怪しげな部屋については把握している。
　しかしあの怪しげな部屋に向かおうにも、校内は逃げ場が少なく、光を自分で作ることは出来ない。
　故に用務員室で懐中電灯を拝借しようという思考に至ったのだ。
　それからもう一回外に出て、外回り――職員室玄関から三階を目指す。
　外であれば霊に遭遇しても逃げ場は沢山ある。
(あんまり酷かったら、ろっこんで迎撃すればいいしね)
　彼女のろっこん：ソリッドボイスを使うと、発動中は話すことはできなくなってしまうデメリットはあるが、仕方がない。
　そんなデメリットに対する不安よりもこれから起こるであろう不思議に胸を躍らせ、飛鳥は用務員室に滑り込んだ。

　その頃、皆が一様に目指す件の教室には、神辺こゆみと佐藤良守がいた。
　ふたりは落神を召喚した紙の前に座り込み、しきりに口を動かしていた。
「らっかみさんあたしを一緒に呼んでくれてありがとうああ自由って素敵あは、」
「僕ねぇずっとずっと歩いてみたかったんだぁ。あれどうして歩きたかったんだろう全然わかんないやぁ」
「あはあいはははは」
「わかんないなぁひひひ、ひ」
　口を動かしているのに、ふたりには微塵も表情が浮かんでいない。
　それどころかの目は虚ろで口調もいつものふたりとは違うようだった。
　ふたりはそれぞれ好き勝手に立ち上がり、ゆらゆらと歩き出し扉に手をかけた。
　手をかけたその扉の向こうで、可愛らしい女の子の声がする。
「はぁ……忘れ物をしてしまうなんて、」
　それが宮祀智瑜だった。