●ジャイアント測量部長の最期●


【体育館１Ｆ・中央フロア】

「アンタが部長？　取引がしたい」
　おもむろにそう切り出し、つかつかと歩み寄る御剣 刀に、
「むう？　取引とは何だ聞こうじゃないかメジャー」
　と興味を示すジャイアント測量部長。
「今回の騒ぎを止めてくれたら、鷲尾先生の協力で得た
　俺が知っている奴の胸囲データをおまえ等にやるよ」
「よし、騒ぎを止めようじゃないかメジャー」
「ありがとう、じゃあこれが約束の胸囲データだ」


　　御剣 刀：バスト31cm（？カップ）


「ムキーー！　これは貴様のデータじゃないかメジャー！」
　交渉失敗！　両手を振り上げぷんすか怒り出すジャイアント測量部長！
「馬鹿な……確かに詳細を黙って渡したハズなのに、何故俺のデータだとバレた？（驚愕）」
　こらこら、とツッコむその場の女子全員。
「やはり鷲尾先生のバストサイズも渡さなければ、信憑性が足りなかったか……」
　ちなみにその鷲尾先生には結局、サイズは教えてもらえなかったようだ。きっと午前にいろいろあって、先生も疲れていたのだろう。
「せっかく体育館までまた戻ってきたのに、ダメだったわね」
　あと御剣の数値の方にはツッコむべきなのかどうか迷っている橘 千歳に、
「いや……まだ、手はある！」
　とそこにメガネをスチャッとさせながら、１人の女生徒が進み出た！
「ピピピ……夾雑物を感知。ええい！　奴等、水準がブレとる！
　トラバースが結合しとらん！　……許せんわ！」
　左右の手に体温計＋血圧計を持ち替えながら、何やら憤っているその眼鏡少女に千歳が、
「えっ。あなたは……？」
「失礼、申し遅れた。私設！真・測量部の構成員、菅原 嶺だ」
「し、真・測量部？」
「そこはいい。よく見てみろ、あのジャイアント測量部長の身体を！」
　嶺の有無を言わせぬ迫力に押されて、千歳が測量部長の巨体を振り返れば、
「ろっこんで今、夾雑物を感知した。抜かったな、奴等……一枚岩では無いぞ！」
「えっ？」
　そう言われて千歳がよくよく目を凝らして見れば、数十人の測量部員たちに混じって、何だか測量部員じゃない学生もチラホラ混ざっているような。
「ち、違うんだー……！　ぼくは保健委員の仕事で（中略）なんか巻き込まれたんだよーっ」
「って言うかぁ、何でまた私までぇ、一緒に巻き込まれているのでしょうかぁ〜？」
「聞いてくれ。俺はたまたま迷子になって、この測量部長の身体の中に（以下略）」
　あれは……通りすがりに巻き込まれてしまった雨崎 荒太郎、不破 ふわり、邪衣 士らの３人だ！
「雨崎……あの馬鹿、いったい何をやってるのよ」
　頭を抱える（職員室から解放された）栖来 衣夢。
「あれ？　あそこにいるの……ひこにゃん？　何でこんなところにー？　おーい！」
　とぶんぶん手を振り、むやみに喜ぶ瑠璃条 ベガの視線の先をまた見てみれば、
「あっ、あれは……」
「やあやあ、麗しのレディたち。爽やかイケメン学級委員でお馴染みの、八十八旗 信彦さんの登場さっ！」
　ちょうどジャイアント測量部長のアキレス腱のあたりに、１年２組の八十八旗信彦もうっかり巻き込まれてしまっていたりする。
「Σ って、なんでこの信頼と実績の信彦さんまでもが、こんな所に！？」
　その八十八旗のことはガン無視して、千歳が菅原嶺に訊ねる。
「でも……、手はあるって一体、どういうこと？」
「山あれば谷あり、基準点なくして測量なし、等高線すら求めぬ奴等のアイデンティティ粉砕」
「ごめん……ちょっと何を言ってるのか全然分からない」
「つまり、あのジャイアント測量部長は本来、部員同士の固い結束で結合しているはずの巨人形態」
「そうか……、なのに今のヤツは、測量部員じゃない学生をも取り込んでしまっている……？」
　とハッとする御剣刀に、ウムと頷く嶺。
「そうだ、それがあのデカブツの失策！　測量部の部の結束が弱い所──
　すなわち測量部員ではない学生を狙って攻撃すれば、あのジャイアント測量部長とて倒せるはず！」
「Σ って待て待て、ヘイ！　ヘイ！　そこの眼鏡レディはいったい何を言ってるのさ！」
　ってガビーーンってなる信彦をヨソに、
「みんな！　今まで隠していて悪かったけど、実はぼくは測量部員だったんだ！」
「って言うかぁ、ふわりも気が付いたら測量部員さん？　だったのですぅ〜？」
「聞いてくれ。実は俺もたまたま迷子になって今日から測量部員に」
　と身の危険を感じた雨崎荒太郎、不破ふわり、邪衣士たち３人が、いっせいに手のひらを返した！
「そうか……ならばこのジャイアント測量部長の弱点は、
　測量部員ではないそこの八十八旗のみ、ということになるな」
「えっ、ちょ……ま……、なっ、何でそうなるのさ！
　言ってることおかしい、おかしいよねっ！？」
「無事か、貴子！」
　とそこに風紀委員の３年生・橘 敦志と、浅山 小淋の２人も体育館に駆け込んできた！
「なるほど、そういうことか……！」
　状況を聞き、たちどころに全てを理解する橘敦志。
「小淋、お前がろっこんで予知した、近い未来に起こるかもしれない出来事。
　あれはつまり、こういうことだったんだな……！」
　頷き、バッと胸のメモ帳をひらいて女子全員に見せる小淋、そこに書かれている予知はそう、あの一文だ！

　『測量部部長の弱点は、八十八旗 信彦』

「そうか。予知までこう言ってるんじゃ、不本意だが止むを得んな……。
　ここは八十八旗を集中攻撃して、あのデカブツを止めるしかないようだ」
「ちょ、何を言ってるんだい御剣君！
　ちょっと待って皆の衆！　おかしい！　みんな、目がおかしいよ！？」
「ひ、ひどい……！　八十八旗くん……
　なんで……、なんで……こ、んなこと……するの……！？」
　ああ、無惨にもジャイアント測量部長にバストを測られ、ぼろぼろ悔し涙を流していた高尾 日菜が、信彦に非難の言葉を浴びせて立ち上がった！


　　激突、高尾 日菜ＶＳ八十八旗 信彦。


「って待って、マネージャー！　ちゃんと良く考えて！　俺が測ったわけじゃないよね！？」
「さいてー！！　……こ、んな……ひどいこと、する……人！
　……か、髪の毛、なくなっちゃえば……いいんだ……！！」
　ポケットから取り出したメモ帳にガリガリと鷲の絵を描き、ろっこん【とりのおうさま】で鷲のルーくんを召喚だ！　ピーーーーーーッ！
「あ、いつの……かみのけ……おもいっきり……ひっぱっちゃえ……！！」
「ギャーーーーー！？　痛い痛い痛い！！」
　金髪をぶちぶち引き抜かれるチャラひこをヨソに、
「こ、ずえ……ちゃん……！！　わ、たし……もう……
　お、よめ……さん、に……いけない……かも……！」
　と肩をふるわせ、友達に泣きつくとても可哀想な日菜。
「ごめんね……私がもっと早く気づいてれば……
　大丈夫。日菜ちゃんは可愛いから、お嫁さんにいけます！」
　その日菜をぎゅっと抱きしめ、頭を優しく撫でていた屋敷野 梢も、
「……あの粗大ゴミめ」
　とゆらりと信彦をにらんで立ち上がった！　目つきが変貌したこれは、梢の屋敷野様モードだッ！


　　激突、屋敷野 梢ＶＳ八十八旗 信彦。


「日菜ちゃんを泣かせた罪は……連帯責任ですよ？」
「待て待てキノコ！　幼馴染の俺にいったい何をするつもりギニャーー！」
　手加減のない無慈悲な一撃がッ！　下から上に……お婿にいけない程度に！　八十八旗の股間に炸裂する！
「ゴミは、精神的にも肉体的にも、社会的にも将来的にも追い詰めてやりましょーか！」
　その頭をグーリグリ踏んづけて見下しながら、ちょっと楽しそうな表情の屋敷野梢だ。
「ゴミはゴミ処理場がお似合いですよー？」
　その梢の一撃により、部の結束を乱されたジャイアント測量部長の巨体がグラリ……と、傾いた！
「むむっ、何だメジャー！？」
「効いてる……ちゃんと効いてるわっ！　チャラひこへの攻撃が！」
「よし、ひこにゃんをここで休ませちゃダメ！　さらに攻撃を畳み掛けるのよ！」
　歓喜の鬨の声を上げる女子チームが、ここぞとばかりに（信彦に）反撃を開始した！


　　激突、女子チームＶＳ八十八旗 信彦。


「ドフアッ！？　ままま、待ってくれっ、素敵な笑顔のレディ達！
　あっそうそう……俺も！　俺も実は測量部員だったのさ！」
「そんなの！　私たち、絶対に信じな〜〜いわ！」
「ホゲアッ！？　いっ、いやさ、この超絶カッコイイ信彦さんが、
　測量部員だなんて信じたくない、君たちの気持ちはそりゃ、よく分かるけども！」
「だって、ひこにゃんは絶対に、測量部員なんかじゃないものっ！」
「モゴペッ！？　な、なんでこの信頼と実績の信彦さんだけがこんな目に！？」
　もちろん、ここで八十八旗信彦だけが女子たちから集中砲火を浴びているのは、きちんとした理由がある。そう、これは──かつて上穗木 千鶴が、その魅惑のＨカップを触らせて発動させた、ろっこん【神様ゲーム】の代償効果。
　八十八旗信彦が正体を隠して、女子の身体測定に紛れ込んだあの時──この【神様ゲーム】の効果によって、体育館中の女子に「測量部員ではない」と幸運にも信じ込ませた、そのツケが。
　こうして今、女子の誰からも「測量部員だ」と信じてもらえないという等量の不幸となって、悲劇の信彦に跳ね返ってきたのだった！
「そっ、そんな……ゲポアッ！？　ポゴアッ！？　モギョアッ！？」

　のののののののののののの゛ーーーーん。

「ばっ、馬鹿な……こんなことがあっていいハズがないメジャーー」
　信彦というアキレス腱の弱点を突かれ、部の結束が乱れた測量部長の表皮から、次々と構成員の部員たちが地に剥がれ落ちていく。
「ぬぬーーーん。こ、こうなったらせめて……せめて最後に一山……ッ！」
　ジャイアント部長最後の抵抗、かろうじて腕の形状を保ったその巨大な右手が、フロアで立ちすくむ女子の１人──小山内 海のバストめがけて襲い掛かる！
「しまった！　逃げろ、小山内！？」
　その御剣 刀の声にハッと弾かれたように、海は胸のスケッチブックを放り捨て、襲い掛かる測量部長にくるりと、その小さな背を向けた。
　ダメだ、もう逃げられない──
「いえ、違うわ、これは──御剣君！」
「分かってる、任せろ！」
　小さな仲間の意図に気付いた橘 千歳が巨人の懐に、そして御剣刀が巨人の足許へと疾る。
「八十八旗……すまんっ！」
「ブベラッ！？」
　巨人が踏み出した、その出足を足払い（＝八十八旗蹴り）する御剣、
「不法不正を働く者に、正義の心をぶつけるわ！」
　直下から千歳によって放たれた、ろっこん【正義一直線】が巨人の腰をその衝撃波で跳ね上げ、
　そして──振り下ろされる巨人の腕の軌道を予測して、すでに海のペンで引き終えられている、円弧の軌跡。その虹のベクトルに釣り込まれるように加速し、ググッと引っ張られるジャイアント測量部長の巨体──
「きゃあっ！」
　身内の雨崎 荒太郎を蝙蝠人間の姿で助けていた栖来 衣夢が、ブワリと浮く測量部長の身体を、あわてて空中で避け、
「これは──」


　　小山内 海＆橘 千歳＆御剣 刀ＶＳジャイアント測量部長。


　そう、これは──小山内海のろっこんと、その仲間たちによる連携技。
　ろっこん【アクセラレイトライン】による、ジャイアント測量部長の一本背負いだ！


　ズダァアアアアアアアアアアアアンンン！！！　


「うぎゃああああああああああああああ！！」
　体育館のフロアに背中から叩き付けられ、バラバラになって元の測量部員の集団に戻るジャイアント部長。こうして、最後の切り札まで破られた測量部は完全敗北し、
『えっちなことは　いけないとおもう』
　ふんすっ、とスケッチブックをめくって見せる小山内海と女子たちに、全員が平謝りに降参したのだった。
『でもはんせいするひとは　ゆるしてあげる』
「「うんわかった。もうしないんだシャー」」
「はっ。私ったら、何をやってたのかしら。全然記憶が無いわ」
　そして、叩き付けられたショックで正気に戻った、北風 貴子以下風紀委員たちの手によって、今度こそしっかりとお縄になったのであった。

　こうしておっぱい戦争は終結し、寝子高女子のバストを測らんとする測量部の野望は、多くの有志生徒たちの手によって見事、ここに挫かれたのである。やったね！