●風紀委員長、覚醒●


【体育館１Ｆ東側・体育用具倉庫】

　草薙 龍八と吉祥寺 黒子の『北風貴子メイクアップ作戦』、続行。
　しかし困ったことにその、着替えさせるセクシー衣装がここに無いのだ。やはり『ワースト』のメンバーである【VOLPE】こと加瀬 礼二が、今頃武道場の物置部屋に用意しているはずだったが、先に述べたようにそこまで北風を背負って運ぶことができない。
「Oh、呼んだ？　ちまたで噂のエロテロリストとは私のコトね！」
　そこにろっこんでシュタタッと無駄回転しながら、レイラ・トンプソンがやって来た！
「こらこら。勝手に混ざるな、混ざってくるな（押し出す）」
「俺ら最初に（ひそひそ）言ってたんだから、内緒話ってこったろ。空気読めよォ」
「クーキ……Oh、ジャパニーズ・スペシャル・アーツ、ゴッド・ウィンドのコトね！
　それならこのエロテロリストも使えるわよ！」
「頼むからそこを拡げるな。と言うか、何なんだその破廉恥な格好は」
「ジャパニーズ伝統のエロテロリスト……すなわち、クノイチ・ガールよ！！」
　ばーーーーーーーーーーん！！
「いちいちパンツを見せるなパンツを」
「つーかあんた、ついさっきまでナース服だったじゃねーか。
　いつ着替えたんだよ。コスプレ好きったって限度ってモンがあんだろ」
「Oh、コスプレ衣装なら、そこにあるのを拝借したわ！」
　顔を見合わせる、黒子と草薙の２人。レイラが指差す方をバッと見れば、跳び箱の上に山と積まれているのは、大量のコスプレ衣装と化粧道具一式。
「こ、これは……」
　あの夜榊 鏡花が、かつて測量部員の捕虜たちを着替えさせようとして用意していたコスプレ衣装だ！
「おい、使えるじゃねーか。これならワザワザ武道場まで行かなくても」
　光明が見えてきた。あとは邪魔者さえ排除できれば、この用具倉庫で北風を着替えさせられる。
「よし……時間もない。ここでやろう」
　２人はようやく決断した。
「おい、さっきからコソコソと、何をやってるのさ。怪しい連中だな。
　いいんちょに危害を加えようって考えなら、この僕が……」
　と不審に思って北風を防衛しようとする伊賀 解理を、草薙が最後の爆竹とネズミで「ドぱぱんっちゅうちゅう」→「うわっ！」「Oh、スタコラ！」と邪魔なレイラと共に追い出し、そして寝ている北風を黒子が手早く着替えさせ、化粧を施していく。
「北風……今から俺が可愛くしてやるよ」
「メガネ取った方が、写真写り良さそうだな」
「バッサバサのつけまでギャルメイクをして……っと。お、イケてんじゃん？」
「ドレスは元々【VOLPE】が用意していた衣装に、近い物を選ばんとな」
「胸許が開いて深いスリットが入った、色っぽいドレスだって聞いたぞ」
「Oh、それならこの衣装がジャストぴったりね！」
「そんでゴスロリ風に仕上げてっと……よし、できたぜ」
「ククク……マジで別人みたいに綺麗になるもんだな。さあ、目を覚ませ北風。
　綺麗に化粧され綺麗な服を着てメガネも外し、美しくなった自分の姿を見て驚くがいい……
　Σ って、誰だよコイツ！？」
　そこにヨダレをたらして寝ているのは、「ギャルメイクをしたセクシーなゴスロリ風のクノイチガール」という何だか珍妙な代物だった。
「Oh、キュートなハイブリッドガールね！」
「あんたさっき追っ払っただろうが！？　だから勝手に混ざってくるなよ！」
　各々の好みを足していった結果、何だか良く分からない物体に……
「う〜〜ん、さっきから、ぎゃあぎゃあとうるさ……えっ。これは」
　とそこでようやく起き出した北風 貴子が、自分の姿を見てギクリと固まった。
「なっ、なっ。ななな何なの、この破廉恥な格好はっっ」
「おっと、お目覚めか」
　と慌てて草薙がその姿を写真に撮り、『【拡散希望】謎の美少女』のキャプションを付けて、その画像をねこったーに流す。ついでにそのスマフォの画像を、風紀委員長にもよく見えるようにかざして、
「ククク……どうだ北風貴子。学校内で校則以外の格好をしているご感想は？」
「こっ、このギャルだかセクシーだかゴスロリだかニンジャだか何だか良く分からない格好の女が、私ですって？」
　口をぱくぱくさせて、理性が崩壊寸前の北風。何事も全てがキチッとしていないと許せない彼女にとって、今の自分の何だか良く分からない状態は、草薙たちが想像していたより、よほどショックが大きかったようだ。
「そん……そんな……」
　ちゅうちゅうちゅー。
「あっ、えっ……？」
　あと、なぜかその足許に１匹のネズミが。何故って言うか、これはさっき草薙がこの倉庫内に撒いたネズミだ。
「イヤーーーーーーーーーーー！？」
　絶叫して、うーーん、ぱたりと再び気絶してしまう風紀委員長。
「Oh、タイヘン！　タカコがまた倒れてしまったわ！」
　とレイラが介抱しようとするが、今度はすぐにむくりと起きて立ち上がった。しかし明らかに様子がおかしい。
「あははは、なるほど分かったわ！　そう、つまりこういうことだったのねっ！」
「おい……北風？　もしもし？」
「何を隠そう、この私が！　測量部の部長だったのよ〜〜！」
　と訳の分からぬことを錯乱して口走りながら、そのままヒャッハーーと体育館に跳び出していった！！


【体育館１Ｆ・中央フロア】

　測量部、敗退。
　逃げ遅れて死屍累々と横たわり、あるいは捕獲された彼ら測量部員たちは今、フロアの中央にまとめて集められていた。もちろん、逃げ出せないように女子たちに見張られ、ネットや自身の巻尺で、しっかりと手足を縛られている。
　しかしそんな怪我人たちを見捨てることなく、その手当にあたる女子たちもいた。真面目な保健委員の御鏡 聖と、そして自称医者のタマゴの薬学者モドキ、緋王 輝夜の２人である。
「バストサイズを測りに来た人とか関係ありません。
　怪我をしているなら、そういう人は放っておけませんから」
　そう言って甲斐甲斐しく、自分にできる精一杯のことをする御鏡 聖に、
「うう……こんな我々にまで、優しい言葉を」
「女神さまや……戦場のナイチンゲールだシャー」
　と滂沱の涙を流して己の悪行を悔いる、測量部の面々。
「女の子はそういうの聞かれるの恥ずかしいんです、
　だから、その……むっ、胸のサイズとかもう、聞かないで下さいね？」
「うんわかった。もうしないんだシャー」
　また、外見小学生のようにちんまい緋王 輝夜の方は、しかしこれでも参道商店街にある『緋王診療所』の娘なのだ。籠城時にも肌身離さず背負っていたリュックから、救急セット一式を取り出すと、
「測量部だろうと、怪我人は無視できねーぜ」
　とやはり彼女も、測量部員たちの応急処置に忙しく走り回る。
「まあ、メジャーさえ取り上げておけば、もうこいつらにも害は無いだろうしよ」
　しかし、怪我人の数は見渡してもキリがないぐらい多い。そこでおもむろに輝夜が取り出したのが、彼女が独自の配分で調合した、自作の栄養ドリンクだ。
「よっしゃ、この奇跡の健康飲料を飲んでみな。ほんの一口で、元気百倍だぜ！」
　と輝夜が請け合うその栄養ドリンクに、測量部の捕虜全員がギョッとなった。その瓶の中は、熱も加えられていないのにボコボコと泡立ち、実にステキなマーブル模様になっている。存在しない色で例えるなら、ペイズリー色といったドリンクか。
「「シャ、シャーー！？」」
　こんなあからさまにヤバイ代物を飲まされてなるものかと、ぶんぶん必死で首を振る捕虜全員、しかし輝夜はにっこり笑うと、
「安心しろ、あたしは天才だぜ？」
　と言って瓶を開け、抵抗できない部員たちの口に無理やりその栄養ドリンクを流し込んだ！
　
　ボッファーーーーーーーーー。

　緋王輝夜の無自覚ろっこん、【奇跡の薬】が発動だ！
「「イヤッフィーーーーーーーー！！」」
　たちまち拘束を引き千切って、超回復を遂げる測量部の部員たち！
「おーー、さすがあたしの特製ドリンク、効果てきめんだぜっ！」
「Σ ってコラ、ちょっと何やってんの、そこーーーーーーーーーー！？」
　振り返る女子全員の前に、さらにヒャッハーーと錯乱した北風 貴子が駆け込んできた！
「そ〜〜ようっ、実はこの私が！　測量部の部長だったのよ〜〜！」
「「なにっ！？」」
　バッとこちらも振り向く測量部の部員たち、
「オオォ……長年部長不在だった我ら測量部に、ついに念願の新部長が現われようとはッ！」
「しかも見よ同志、部長の胸にそびえしあの山を、あの勾配を！」
「いや……あれはもう山などではないッ！」
「世界で最も美しい黄金比！　勾配５１度の金字塔！」
「ピラミッド……あれはピラミッドおっぱいである！」
　ワーーーーーーーーーーーー。
「我らも！　降臨された新部長を、我らも丁重にピラミッドでお迎えするのだッ！」
　とマスゲームでたちまち巨大な人間ピラミッドを造り、その頂点の玉座にワッショイと北風を祭り上げる測量部。

　おっぱい！（ピタゴラ）　おっぱい！（ピタゴラ）
　おっぱい！（ピタゴラ）　おっぱい！（ピタゴラ）

　新部長を歓喜で迎えて、新たに測量部の結束がここに強まった！
「そしてとくと見るがいいッ、これが……測量部伝統の大技ッ！」

　ガシャーンガシャーンジャキーーーン
　ガチャガチャズガシャーーーーーーン

「そんな……こんなことって、まさか……」
　呆然と立ちすくむ女子チームの前で、測量部の人間ピラミッドが変型し、みるみるその形を変えていく。
　のーーーーーーん、と体育館の天井スレスレに立ち上がったその巨大な人の姿は、
「これがッ！　測量部の誇る超弩級人型測量形態──
　部員合体☆ジャイアント測量部長であーーーーるッ！！」

　ドギャーーーーーーーーーーーーーン！！！

　大完成☆
　超絶部員合体────ジャイアント測量部長、誕生。