【終業式】輝かしきピリオドを――夏休みを求めて！｜リアクション

【終業式】輝かしきピリオドを――夏休みを求めて！

　そんな腐った乙女の叫び声など、どこ吹く風。
　御巫時子は退場する生徒達を見守りながら、ぼーっと立ちすくむ五十嵐尚輝の傍に寄ると、ぺこりと会釈をした。柔らかく編んだ長い髪が揺れて、或いは錯覚かもしれないが、五十嵐も僅かに笑ったような気がした。
「ああ、御巫さんですか」
　多くの生徒達を午睡に誘う、脅威の平坦ヴォイスですら、時子には甘く心に響く。
「尚輝先生、一学期も今日で終業ですね……お疲れ様でした……」
　にこりと微笑めば、五十嵐も「ありがとうございます」と小さく答えた。
「長かったようで、あっという間だった気がしますね」
　その言葉で、五十嵐に想いを寄せる時子は、この１学期を振り返っていた。
　鳥好きな先生が居ると聞いて、興味を持ったのが、最初。
　それから、段々と気になるようになって……。

　今では、気がつくと五十嵐の事ばかり考えている。

　そんな自分に、自分で驚いてみたり。
　新しい発見や、授業で会うたびに胸を高鳴らせてみたり。
「私は一学期を振り返ると……、楽しい事しか浮かんでこないです……」
　時子がそう結論付ける理由の大部分は、きっと五十嵐のせいなのだろう。
　人や鳥の友達も出来た。二学期はどんな出会いがあるのだろう、自然と期待が高まる。
「尚輝先生は、いかがでしたか……？」
　首を傾げて見上げれば、五十嵐も時子につられるように首を傾けた。
　何気ない問い掛けが、小さな共感を生んだように思えて、それが何だかくすぐったくて、嬉しくて可笑しくて。
　時子の笑顔が、輝いた。

「夏休みは、尚輝先生はどうされるのでしょうか……？　研究室で寝泊まりしてると聞きましたが、学校のですか……？　それとも……別の施設？」
　痩せ気味で、寝食をきちんとしていない五十嵐の体調を気遣って、時子は尋ねた。
　何だか質問攻めにしてしまっている事には、夢見心地の彼女は気付かない。
　それは一方の五十嵐も同じ事で、そんな乙女の気遣いや善意など露知らず。
「学校のですよ。研究室といっても、理科準備室ですし」
　と、あっさりと答えた。

「あの、尚輝先生……」
「はい？」
「夏休みも、学校でお会い出来るでしょうか……？　もし、良かったら少しだけでも、勉強を見ていただければ、嬉しいのですが……」
「構いませんよ」
　もじもじと発せられた時子のささやかな口実に、五十嵐の返答は変わらず端的だった。
「御巫さんは勉強熱心ですね」
「はい、あの、ありがとうございます……。お礼と言ってはなんですが……私、またお弁当を作りますね……」
　はにかんだ時子の頬に、うっすらと朱が差して。
　二人は並んで、講堂を後にした。
　ぽつり、ぽつりと言の葉を交わしながら。

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