【終業式】輝かしきピリオドを――夏休みを求めて！｜リアクション

【終業式】輝かしきピリオドを――夏休みを求めて！

「ととっ、スピーカーの近くは危ないわね……」
　ピンクの光線を縫って、宙を駆けるのはコスプレ大好きっ娘・栖来衣夢である。
　緊急時用に、こっそり忍ばせておいた、小分けのケチャップを飲み干すと
　【夜の皇女（ナイトメア・ヴァンピーラ）】
　彼女の背には蝙蝠の黒い羽根が出現し、空を飛ぶ事も出来るのだ。

「冷房が暖房になるなんて……全く、厄介な状況だわ……。テオ、何時もの事だけど、世界切り分けるならちゃんと切り分けなさいよね……」
　苦言を呈す、衣夢。
　あれで意外と、未来のネコ型ロボットみたいなところがありまして、勘弁してやってください。
「とにかく、私はあの空調を何とかしてみるわ。こんなサウナみたいな状況が長く続いたら、どんなに体力に自身があっても持たないわよ」
　衣夢の言う通り、窓が開放されたお陰で、多少緩和されたとは言え、気違い染みた暑さに、皆は体力をごりごり削られていた。
　暖房運転に切り替わった空調から、吐き出される熱風が、衣夢のスカートを揺らした。
「……そこね」
　空気の流れに神経を研ぎ澄ませ、耳を澄ます。
　エアコンの位置を特定した衣夢は、手を伸ばしてスイッチなどがないか探す。
　空調は２階部分に集中しており、対応はまさに衣夢に適役だった。

「うーん……スイッチ一つで冷房に変えたり、電源を切れたら良かったのだけど……こちら側からは、操作出来ないのかしら。電気系統は、どこかで一括して管理しているのね」

「ダメだったら、物理的に破壊するしかないわね」
　衣夢は大きく息を吸い込んだ。
　コスプレ好きが昂じて、コスプレ部の一員となり、また普段から入念なストレッチで美貌を保ち、必殺技やキメポーズの練習に勤しんでいる真価が問われる。

「かの格闘家達は、拳で車やレンガブロックの山を、粉砕していた。私じゃさすがにそこまでは行かないけれど、見よう見真似で習得した、必殺技を叩き込んであげるわ！」
　宙に浮いたまま、腰を屈めて拳を握り締める。
　全身の気を集中し（たつもりになり）、衣夢は羽ばたきと共に、捻りを加えながら一気に力強く跳躍し、拳を突き上げた！！

「受けろ！　必殺の！　ナイトメアドラグーンナッパァァーーーッ！！！」

　どご――ん！！！
　派手な音と共に、エアコンが沈黙した。

「ふっ、決まったわね」
　白く繊細な髪をかきあげ、サムズアップする衣夢。
　残念な事に、混乱の最中で、高い所に居る衣夢の勇姿を、誰も見ていなかったが。

　そうして、一つ一つ、のんびりと衣夢がエアコンを黙らせる作業は進む。

　どうしてのんびりかって？　だあって、手が痛いんだもーん。
　基本世界に戻ったら、多分、痛いの飛んでってると思うけれど。

　そう、「多分」で絶対とは言い切れない。
　だから八神修のように、基本世界への影響を危惧し、破壊をする者達へ忠告をしようとした者も存在した。
　けれども、この混乱の中で誰が何をしているか、把握する術を彼は持っていなかった。
　そして衣夢らの働きも、ハゲタッチを目指す仲間達のバックアップになっていたのが、事実であった。