Un peluche importante｜リアクション

Un peluche importante

　可愛いものは大好きで、もふもふなぬいぐるみが作りたい！　と、張り紙を見て即予約をした鴇波羽衣だったが、いざ生地を目の前にするとどうしたら良いのか分からずに躊躇してしまう。作ろうと思っているのは、モモンガだ。猫もアザラシも好きで考えたのだが、やっぱりモモンガが良い。空も飛べるし、もふもふしているし、羽衣の好きな動物の一つだ。麗佳に選んでもらったもふもふの生地を撫でつつ、どんなモモンガにしようかと考えながら紙を引き寄せる。お裁縫はそれほど得意な方ではない挙句、自分のセンスに自信がない。サラっと描いたモモンガの絵を持って麗佳に見せに行ったところ、物凄く微妙な顔をして固まってしまった。
「えぇっと……これは……ど、動物、かしら？」
　熟考する麗佳。必死に羽衣の描いた謎の生命体？　が何なのか探ろうとするが、独特すぎる感性で描かれた絵は前衛的過ぎて、麗佳には伝わらなかった。ガクリと肩を落としながら「モモンガです」と呟く羽衣。何処をどう見たらモモンガになるのか探ろうと、麗佳が紙をくるくる回し、結局諦めたのか、とても曖昧な笑顔を浮かべながら「ぬいぐるみは絵の上手い下手じゃないから」と、慰めてくれる。
「こんなあたしでも、可愛いぬいぐるみ作れるかなぁ？」
「モモンガなら、私が前に作った型紙があるから、それを元に作ってみたらどうかしら。羽衣ちゃんが気に入るようなデザインかは分からないけど、もし気に入らなければ新しく型紙を作ってあげるから」
　その提案に、羽衣の大きな黒い瞳がパァっと輝く。麗佳が奥から持ってきた型紙と、それを元に作ったモモンガのぬいぐるみを見て、羽衣は一目で気に入った。円らな瞳は可愛らしく、このぬいぐるみをあのもふもふの布で作ったらまさに羽衣の求めていたモモンガになる。
「わぁ、可愛い！　この型紙に沿って布を切れば良いんだよね？」
「えぇ。それで、羽衣ちゃんはモモンガを誰にあげるの？」
「自分のために作るつもりだけど、プレゼントかぁ……」
　頭の中に浮かんだ顔に、彼がぬいぐるみが好きかどうかをボンヤリと考える。彼の事を考えただけで自然と熱くなる顔に、羽衣は思わず両手で頬を覆った。
「あ、その顔は……好きな人の事でも考えてるな？」
　悪戯っぽく言われ、羽衣はブンブンと力強く頭を振った。高く結い上げたポニーテールが空を切る音が、耳元で聞こえる。
「いやいや、そんなんじゃないよ！　あああああたしが恋愛なんてそんな、似合わないし……それに、あたしなんかのあげたって、きっと失礼だよ……」
「そんな事ないわよ！」
　力説しそうになる麗佳の目が、羽衣の描いたモモンガ（？）に向けられ、黙ってしまった。素直過ぎる麗佳の態度に、羽衣は再度肩を落とした。
「あぁ、落ち込まないで羽衣ちゃん。確かにあの絵は独特だったけど、型紙を元に作れば絶対上手く出来るわよ」
「あたしに出来るかなぁ……」
「勿論！　上手く作りたい、誰かに喜んで欲しい、そういう心があれば、おのずと上手く出来るものよ。でも、羽衣ちゃんの好きな人ってどんな人なのかしら？　羽衣ちゃんが小柄だし、背の高い人とか……」
「ちっ、ちちち違うからっ！　そ、そんな、好きとか、あの、その……あ、あたし、モモンガ作らないと！」
　羽衣は顔を真っ赤にしながらも自身の席に戻ると、何とか心を落ち着けようと深呼吸をした。ニヤニヤと楽しそうな麗佳の視線が突き刺さるが、今はモモンガに集中しなくてはならない。出来上がったモモンガをどうするかは、出来上がった時に考えよう。もしも上手く出来たら……その先に続く想像に、羽衣の心臓は更に早く脈を打った。