Un peluche importante｜リアクション

Un peluche importante

　夏の到来を思わせる強い日差しに、遠矢護は額に滲んだ汗をハンカチで拭った。大通りをトラックが通り過ぎ、熱い風が巻き上げられる。埃を含んだ風に思わず足を止めて目を細めた時、護の目にぬいぐるみ教室の張り紙が映った。
　護は手先が器用で、編み物やぬいぐるみ作りが趣味だった。手芸店でこっそり買い物をしては、猫鳴館の自室で秘かに作っている。本を買い、独学で色々なぬいぐるみを作ってきたけれども、一度先生の作り方を見てみたいと思っていた。
　参加してみたい。そう思うものの、きっと教室に来るのは女の子ばかりだろう。それに、人前でやるのは恥ずかしいし、今まで一人でこっそりと作ってきたのだから、誰かと一緒に作るとなると何となく気後れしてしまう。参加したい心と、羞恥心がぶつかり合い、護は暫らく張り紙の前を動けずにいた。
　悶々と考える事十分足らず、護はキュっと唇を噛み締めると勇気を出して携帯を取り出した。気弱で一人で行動する事は苦手な護だったが、折角の機会なのだから、先生に色々と聞いてみたいという気持ちが勝った。

　ペットショップの片隅に置かれていたぬいぐるみ教室のチラシを前に、維都月茉菜は目を輝かせた。ぬいぐるみが自分の手で作れるなんて、素敵だった。それに、一針一針に想いを込めてと言う一文も茉菜の心を掴むのには十分だった。
　茉菜は、一言で言ってしまえば不器用だった。不器用極まりないと言っても良い。裁縫スキルも、壊滅的と言って過言ではない。それでも、先生に教えてもらいながらなら何とかなるかも知れないと言う淡い期待があった。不器用でも、教えられた事をその通りにやるくらいなら出来るはずだ。
　ペットショップから出て足取り軽やかに歩いているうちに、ふと頭の中に八神修の顔が浮かんだ。誘っても良いものか一瞬迷い、すぐに頭を振る。修とは友達でいると、あの日茉菜自身が決めた。淡い恋心は全部、あの日の思い出の中に置いてきた。変に避ける事なんて、したくない。否、してはいけない。茉菜は小さく気合を入れると、修に電話をかけた。

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