『世界でたった一つのぬいぐるみを作りませんか?』
『誰かへの贈り物として、自分のお友達として、一針一針願いを込めたお人形を一緒に作りませんか?』
赤々とした文字が躍るぬいぐるみ教室の張り紙に、御陵 優妃は目引かれて足を止めた。
『参加費は材料込みでぬいぐるみ一体につき2000円、二体以上作る場合は追加で1000円。支払いは当日』
開催日は今週の日曜日の12:00から、受付は土曜日まで。張り紙の下のほうには教室までの地図と電話番号があり、最後に如月 麗佳と端正な字で名前が書かれていた。
ぬいぐるみは大好きな優妃だったが、一人で見知らぬところに行くなど、人見知りの激しい彼女には無理な話だった。そもそも、お裁縫自体が得意ではない。不器用だからと言うわけではなく、針が怖かった。針を持つと、変な緊張をしてしまう。
「あら? もしかして、興味あるのかしら?」
不意に背後から声をかけられ、優妃はビクリと肩を震わせると振り返った。
妖艶と言う言葉が似合う、背の高い色っぽい女性が立っていた。真っ赤な口紅に、ギリギリまでスリットの入ったタイトスカート、鮮やかに染められた髪は緩く巻かれており、白いシャツの胸元は大きく肌蹴て豊満な胸が顔を覗かせている。
「私は如月 麗佳よ。そのぬいぐるみ教室の先生。麗佳って呼んでね。可愛いお嬢さん、お名前は?」
オロオロしながらも、優妃はなんとか自分の名前を名乗った。
「優妃ちゃん、ぬいぐるみは自分用? それとも、彼氏用? ……彼氏用よね! こんなに可愛いんだもの、彼氏の一人や二人や三人はいるわよね! うん、きっと彼氏も可愛い子よね! あ、でも待って、綺麗な子も良いわね。んー、ワイルド系も捨てがたいわぁ。でも、秀才系も……」
突然のマシンガントークに、言葉を挟む余地がない。延々と優妃の彼氏について自論を繰り広げ、最終的に彼氏が十人の大台に乗ったところで、麗佳は我に返ると微笑んだ。
「それじゃあ、どんなぬいぐるみを作るのか、日曜日までに決めておいてね。材料は何でも揃ってるから」
いつの間にか、ぬいぐるみ教室に参加する方向で話が纏っていた。というよりも、気付いたら参加する流れになっていた。
「そうそう、当日までに何体作るのか決めておいてね。時間的にも、彼氏全員分は難しいからね」
チュ。っと、頬っぺたに軽くキスをしてから、麗佳は爽やかな笑顔を浮かべて手を振った。
「日曜日に会いましょうね、優妃ちゃん」
去って行く後姿を見ながら、優妃はたった今何が起こったのか冷静に考えていた。しかし、どうしてこんな事になってしまったのか、考えてみてもよく分からない。
当日行かないという手もあるが、一度行くと約束したのだからそれを違える事は出来ない。
どうしよう……。
悩みに悩んだ挙句、翌日優妃は胃痛により寝込んだのだった。
日曜日の昼下がりにまったりぬいぐるみ作り……とは、いきません。
恋愛話大好きな麗佳は何かにつけて恋愛に話を持って行きながら絡んできます。
麗佳と恋愛話を楽しんだり、お友達とわいわいぬいぐるみを作ったり、一人で作業に没頭したり、ぜひぬいぐるみ作りを楽しんでいってください。
場所情報
シーサイドタウンの一角にある一軒屋です。
比較的中は広く、机が沢山並んだ大部屋の隣には様々な生地や小物、道具が詰め込まれた部屋があります。
必要な物を麗佳に言えば見繕ってきてくれますが、自分で探すのも可能です。
NPC情報
如月 麗佳(きさらぎ れいか)
二十代前半くらいの年齢に見える妖艶な女性。実年齢は不明
恋愛話が大好きで、勝手にカップル認定してどんどん話しを進めていく。性別など関係なく、そこに二人の人間がいればカップルが成立する
例えそこに一人しかいなくとも、想像力を駆使して勝手に架空の彼氏や彼女を作っては盛り上がっている
自分の恋愛話になると、スルースキルを発揮する。どうやら彼氏はいない様子
ぬいぐるみ作りの腕は確かで、お裁縫が苦手な人にも、手取り足取り腰取り恋愛話に華を咲かせながら丁寧に教えてくれる
御陵 優妃(みささぎ ゆうひ)
寝子高芸術科1年7組
日本とフィンランドのハーフ
ピアノと歌が得意。極度の人見知り。初対面の人とは上手く喋れない
兄にプレゼントするためのぬいぐるみを作りに来た
教室の隅で黙々と作業に没頭しているが、手つきは危なっかしく、いつ指を刺してもおかしくない
『Pioggia Capriccioso』『Geheime Maske』に登場していますが、知らなくても問題はありません。
大人しく作業していますので、アクションに明記されていない限り自分から積極的に絡んでいく事はありません。