Un peluche importante｜リアクション

Un peluche importante

「優妃ちゃん、どうだった？」
　戻って来たるるかに、凛が心配そうに声をかける。るるかは小さく微笑みながら「大丈夫そうだったよ」と首を振ると、凛の隣に腰掛けた。
「優妃ね、針が怖いんだって。注射とか点滴を思い出すからって。まぁ、ロベルト達がついてるし、心配ないと思うよ」
「そっか。身体弱いのかな」
「どうだろう。強そうには見えないけどね。……でも、お兄ちゃんにあげるから頑張るって言ってたよ」
「優妃ちゃん、お兄さんと仲良いんだね」
「ねー。ちょっと羨ましいかも」
「お兄ちゃんって、少し憧れるよね」
　そう言って微笑み、ふとあることに気付いて顔を見合わせる。
「そういえば、お互いの家のことって知らないね。凛は一人っ子だよね？」
「うん。東京の実家にいたころは、パパとママと三人暮らしだったよ」
「ね、凛のパパってどんな人？　優しい？　かっこいい？　ギターを教えてくれたのも、そのパパなんでしょ？」
「そうだよ。私が音楽好きになるきっかけをくれたんだ！　私のパパはね、すっごく素敵な人だよ！」
　凛が手を動かしながら、嬉しそうに顔を綻ばせる。
「小さい頃から一緒にお部屋で音楽を聞いてたりしてたの。いつも使ってるギターも、１２歳の誕生日の時にパパから貰ったものなんだ♪」
　どうやら、凛はお父さんの事が物凄く好きなようだった。ルームメイトの楽しそうな様子に、るるかの表情も柔らかくなるが、続く言葉に目を丸くした。
「こっちに来たのは高校入ってからだけど、一緒に暮らしてた時はお風呂も一緒に入ってたよ！　それくらい気の許せる人なんだ」
「えっ……こっちに来るまで一緒にって……中三まで一緒にお風呂入ってたの！？　それはちょっと……でも、よそんちじゃフツウなの？」
「るるかちゃんは何歳まで一緒に入ってたの？」
　凛の質問に、るるかの視線が寂しそうに手元に落ちる。
「私んちは、母子家庭で……小さい頃に離婚して以来、パパは行方不明なんだ」
　大恋愛の末学生結婚をして、二十歳そこそこでるるかを産んだ母親は、バリバリのキャリアウーマンだった。一方父親は甲斐性なしの専業主夫で、結局結婚生活は長くは続かなかった。愛想を尽かしたくなる母親の気持ちは分からなくもないが、それでもやはり淋しい。
「私が大事にしてるテディベアは、パパからの贈り物なんだ。名前はパパが付けてくれたんだよ。るるかのもじるで、ルールーって」
「そっか……そんな事情があったんだね。……えっと、なんかゴメンね……」
　るるかが大事にしているテディベアのルールーも、凛のギターと同じく父親からの大切な贈り物だった。いつもるるかが眠る時に抱き締めているぬいぐるみを思い出し、凛は目を伏せた。
「読モのバイトしてるのも、もっと有名になればパパが気付いてくれるんじゃないかって、心のどこかで期待してるからなんだ。今はまだまだだけど、いつかはバーンと大きく載って、パパに気付いてもらうの。……だから、そんな顔しないで」
　父親と仲良しの凛が羨ましい。いつか父親が見つかったら、るるかも凛のような親子になれるのだろうか。でも、本当に見つかるのかな？　見つかったら、なんて言って会えば良いのかな？　父親に会いたくて、恋しくて、それでも会ってどうすれば良いのかは分からなくて、不安と期待が入り混じった気持ちは日増しに強くなって行く。
「るるかちゃんのパパ、早く見つかるといいねぇ」
　凛の言葉に、るるかは小さく頷いた。