あるひまわり畑で面倒なことが起きました｜リアクション

あるひまわり畑で面倒なことが起きました

　八十八旗信彦は、薔薇の香りを辿って、黄金色の種を探していた。今自分がハムスターになっているということは、信彦本体にはハムスターの魂が入っているということだ。となると、このひまわり畑には、信彦本体がいるということになる。
　そこまで考えて、信彦は空気中の匂いを嗅いだ。薔薇の匂いがうっすらとする。
　だが、信彦はその匂いと反対へ歩き出す。この事態に陥る前の信彦自身の様子を思い浮かべたからだ。金色に染め上げられた髪に、レディにプレゼントすべく常備された薔薇の花。馴れ親しんだ薔薇の匂いとは区別しなければならない。
　しばらく歩いていくと、黄金色の種が、地面に転がっていた。風で揺れて落ちたのか、はたまた別の理由か。なんにせよ、幸運なことこの上ない。
　そんな信彦の視界に、ハムスター姿の常葉治が映り込んだ。

「すみません、その黄金の種、どこで見つかりました？」

　口に入れる寸前だったが、ハムスターの本能に抗って、「紳士の心」で種を持つ手を下ろす。
　そうして、本能で口に入れてしまう前に、信彦は種を治に差し出した。

「治ちゃん、どうぞ」
「えっ、でも……いいのですか？」
「公と書いて『ハム（縦書き）』と読む！　公に尽くすこと、それがハム紳士の生き様なのさ」

　爽やかに言い放つ信彦の様子に、治は黄金色の種を受け取る。

「ありがとうございます」

　そして本能に従って、治は口に種を入れた。

　信彦に貰った黄金の種を食べると、治は元の姿に戻ることができた。他に治と同じような人がいないかを確認するため、周囲を見回す。そのような人がいれば植物で足止めをしようと思ったが、治の周りには見当たらなかった。
　治は従来の目的通り、ひまわりをいくつか貰って帰ることにした。許可は取ってあるので、心配はいらない。

「では帰りましょうか」

　ひとり呟いて、治は帰途についた。