あるひまわり畑で面倒なことが起きました｜リアクション

あるひまわり畑で面倒なことが起きました

「な、何故私が目の前にいるのでしょうか！？」

　常葉治は訳も分からず目の前の自分を見つめる。化粧をし、着物を身に纏った自分は、確かにさきほどまでの治自身だ。
　それでは今は、と体を確かめると、人ではなかった。ハムスターに見える。
　パニックになりつつも、治はとりあえず身の危険を感じて、目を閉じ深く呼吸しイメージする。
　周囲にイメージした花を咲かせる治のろっこんを発動させたのだ。
　イメージどおり、アイビーや朝顔といった丈夫で棘の無い、触れたものに巻きつく性質のある蔓植物が発生する。その植物は、目の前の自分の体にまとわり付いて、本体の動きを封じた。
　封じはしたが、治の本体は、あられもない姿だ。いつもより大人っぽい格好の治。蔓で体を封じられているからか、どこか艶かしい。それに加え、体を封じる蔓から逃れようと、治本体が抗うように動く。動いて、着物が崩れて……。
　そんな自分を見て、治は複雑な気持ちを覚えた。

「早く、種を……」

　早く、この恥辱を終わらせなければならない。黄金のひまわりの種を求めて、治はひまわり畑の中を散策することにした。

　上はお洒落ジャージに部Ｔ、下は七分丈黒パンツ姿で、後木真央は落神神社近くの猫集会に向かっていた。
　背中にはおネコさまへの貢物と自分のオヤツを詰め込んだ、赤い猫リュック。
　深夜ということもあって、懐中電灯で道を照らしながら、落神神社への道を歩く。
　途中で修から電話がかかってきて、それを取った瞬間だったと思う。地面が急激に近づいたと思ったら、真央はハムスターになっていた。いや、違う。真央の体は目の前にいる。しかし真央の意識はハムスターの中。ということはつまり。

「真央ちゃんの体には、もしかしてこのハムスターの魂が入ってるのだ……？」

　答えをくれる存在はいなかったが、真央の本体は、人語を喋ったハムスター真央を見ても反応をしなかった。その様子から、自身の発言が正しいのだと確信する。

「これハムスターを全回収しないと猫がみさまに喰われて大惨事なのだ！？」

　人の魂が入っていても大惨事である。勿論、入っていなくて、魂もハムスターだったとしてもだ。
　ゆゆしきこの事態を回避するには、やることはただひとつ。とにかく人であろうがなかろうがハムスター全回収を目指すのである。完徹になろうが翌日授業で爆睡しようが、そんな細かいことは気にしない。

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