はじめてのおさぼり？｜リアクション

はじめてのおさぼり？

●めっちゃ楽しい、ハッピーお一人様

　学校はテスト休みで、バイトもシフトが入っていない。
　のんびり羽を伸ばすため、御剣刀は食べ歩きに向かっていた。
「たまには違う所を開拓するのもいいよな」

　え、テストの結果？　知りません。
　そんな事より、シーサイドタウン独り食べ歩きツアー！　どんどんぱふぱふ♪

　ぶっちゃけ、今は思い出したくありません――（泣）！！

「はー、こんな開放的な気分は久しぶりだ……」
　抜けるような青空に、腕を翳す。

　と、道の向こう側をゾロゾロ歩く、制服姿の女生徒の集団が目に留まった。
「ん？　アレは野々、何してるんだ？　桜庭と、小山内も？」
　他にも見知った顔が、幾人か。
「……あいつら何してるんだ？」
　声を掛けようと手を上げかけたが、ヒソヒソ話込んでるかと思えば、含み笑いを交し合って。
　フツウの女子高生を満喫する、楽しそうな姿に、刀は思い直した。

　そういえば昨日、小山内たちと飯食ってたら、サボりとか何とか聞こえてきたっけ、これの事か。

（……学校をサボるのがドキドキする、か）

　俺もサボり始めた頃は緊張したけれど、最近はサボりすぎて慣れちゃったんだよな。
　今では当たり前のように、さほる（若林沙穂先生の所で授業をサボる事）し。
　何か大切なものをなくしている気がするが、きっと得た物もあるよ、うん。

　でないと、悲しすぎる……。
　俺にだって、人並みに青春を楽しむ権利があるんだ！

　色々な事が、頭を巡るが。
　刀は遠ざかる笑顔に小さな笑みを零すと、その場を離れた。

「そんな事より、食べ歩きだな」

　刀は、まず開店直後の蕎麦屋に訪れた。
「カツ丼定食ひとつ！」
　暖簾を潜り、メニューにざっと目を通すと、男らしく丼物を注文する。
　冷たい蕎麦つきでかなりの量だが、刀は割り箸を折ると、それを制圧し始めた。

（うん、蕎麦屋なだけあって出汁がきいてるな。三つ葉もいい香りで食欲をそそる……カツは揚げたてか、卵で閉じているのに衣がカリっとして、歯ざわりが最高だ）
　ついで、蕎麦の良く冷えた丼を持ち上げる。
（麺は蕎麦粉と小麦粉の折半だな、香りと喉越しのバランスが素晴らしい！　熱いカツ丼と冷たい蕎麦の組み合わせも、ベストマッチだ）
　遠慮なく音を立てて、すすりこむ。
　今日は一人だから、誰にも行儀が悪いと注意されない。
　箸を勢いよく動かして、目一杯掻き込んだ。

　パスタ屋では、ミートソーススパゲティを注文した。
　これもフォークに、ぐるぐる巻いて大口で食べる。
（美味い！　この肉、すげー味が濃いしジューシーだ。挽肉って、扱い方間違うと肉がパサパサになるけど、これは料理法も肉質もいいんだな。麺は手打ちか、太さが変えてあるからソースに絡むぜ）
　付け合せのテイルスープも、煮込まれた肉がぷるぷるで、風味も絶品だ。
　トマトが練りこまれたパンは、軽い食感。オリーブオイルに塩をふって、それをつけて食べる。

「次はデザートにするか」
　喫茶店に入った刀は、珈琲とレアチーズケーキのセットを注文した。
（うおっ！　濃厚なケーキだな、舌触りも滑らかだ。美味すぎて、止まらなくなりそうだ……深煎りのコーヒーに合うぜ）
　いつもは店員として客達に提供している、安らぎ。たまにはソファで寛ぐ側で、カフェの雰囲気を満喫するのも悪くない。
　クラシックな内装や、ＢＧＭの選曲もいい。
「落ち着くな……」

　店を出ると、夏の熱気が襲ってくる。
　アイス屋のショーケースを覗き込むと、おもむろに一言。
「バニラください」

　店員から品を受け取ると、早速口に運ぶ。
「うん、シンプルが一番だな」
　横に並ぶ誰かを待つ必要はない、自分の歩調で、ずんずん風を切って歩く。

　いつも誰かと一緒に居るから、こんな風に独り気ままに遊ぶのが新鮮で楽しい。

「ぶえっくしょい！」
　思いっきり、くしゃみも出来る。爽快！

「これからも時々やるか」