むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～｜リアクション

むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～

　　【仲間の】

　狂騎士は街の中央に在る大きな十字路の中央に立っていた。
　まるで誰かを待つかのように。
　しかし、その目は赤く、到底正気のものとは思えない。
　
　夏神零は、その姿を他の面子よりも遥かに早く、馬を走らせ捕捉した。
　乗馬用にパニエを抜き、スカートを切り裂きスリットを入れたドレス姿で、馬を馳せながら鐙の上に立ち、その背後に矢を射掛けた。
　狂騎士は一度だけ身を翻し、再び正門の方へと目を向けた。
　それだけだった。
　地に落ちた２本に切り落とされた矢を除いては。

　「槍を振るった様に…見えなかった、と……！？」
　零は、そのままの姿勢で立て続けに複数本の矢を放つ。
　そこで初めて、狂騎士は零の方を目に留めた。
　そして放たれた矢を、煩わしそうに地面へと叩き落した。
　矢は無論高速であり、消して遅いものではない。
　──にも拘らず、だ。

　ここには、避ける為の細道も曲がり角も無い。
　零の驚きはそのままに、急ぎ方向転換を掛ける。
　背を向けられた狂騎士は、離れ行く零の馬に向かって、己の槍を投げ放った。
　投げられたのはウィングドスピアと呼ばれる槍。
　全長約２ｍ。投げつけた際に、致命傷以上に食い込まないよう返しのついたものだ。
　どれだけの筋力をしているのか、離れていくだけのはずの零の馬に、それは易々と突き刺さった。
　
　暴れ、横なだれに崩れる馬。
　地面を滑る馬に潰されずに地面に手をつき、何とか地面との激突を回避する零。
　その隙にも、疾風の如く駆け抜けた狂騎士が馬から槍を抜き、零へと向ける。
　「ろっこんは使わぬ…使えば騎士と同じじゃ…」
　零が、そう呟き。
　目の前の狂騎士から目を背けることなく、諦めず倒れる馬の荷台から槍を掴むのと。
　狂騎士の槍の穂先が零の胸を躊躇い無く貫くのは、ほぼ同時だった──

　
　