夏だ！　海だ！　大雪だ？！｜リアクション

夏だ！　海だ！　大雪だ？！

（カモシカの様なすらりとした足。無駄のないスレンダーなボディ。そして激情ながらも凍えるような美しき感情の発露）
　株式会社ニャコールの社長鷹峰颯は、麗子を見るなり直感した。
　彼女こそ、新作の下着に見合うモデルだと。
　もうすぐ還暦だというのに、颯には老いが感じられない。
　鍛え抜かれた筋肉質な身体は壮年期を髣髴とさせるパワフルさで、吹雪を難なく乗り越える。
「そんな怖い顔は君には似合わないな。もしよかったら私に怒ってる訳を教えてくれないかね？」
　実に紳士的に問いかける颯。
　ふっと笑う笑顔が実に優しげで、ろっこんの効果も相まって、麗子は表情を和らげた。
「こんなカップルだらけの海にあなたのような紳士がいるなんて、珍しいわね」
「そうかね？　こんな老いぼれでよければ、話し相手ぐらいにはなれると思うのだが」
「……あまり人に話したいことではないけれど。言ってしまえば簡単な話だわ。わたしはね、もてないのよ」
「君は大変美しいというのに。周りの異性は何をしているのか」
「皆そういうわ。『あなたは美しい』って。わたしも精一杯の努力をしてきたわ。毎朝サラダは欠かさないし、就寝も肌のサイクルを考えて２２時には寝ているわ。早朝マラソンだってしているわ。このスタイルと美貌を維持する努力は常にし続けているのよ。それなのに……」
　颯は頷いて、麗子に先を促す。
「わたしは、失恋したのよ……。これ以上、どんな努力をすればいいというの？　誰もがもう十分美しいと認めてくれるのに、なぜわたしは振られるの？！」
「君は自分の感情を表現でき、なおかつスレンダーな美人さんだ。成長すれば必ず男は放っては置かないさ」
「そうかしら。花も恥らうといわれる今この時にこんな思いをしているのは、きっとわたしぐらいだわ」
「一度の失恋で、自棄を起こしてはいけないよ」
「一度……」
　その言葉に、麗子の顔がみるみると怒りへと変わってゆく。
（これは地雷を踏んでしまったようだね）
　モデルにならないかと誘う前に、やらかしてしまったようである。
「失恋は！　一度なんかじゃないわっ、何度もよーーーーーーっ！」
　どっかあああああんっ！
　颯が凍えるような美しき感情の発露と評したそれは、筋肉美をもってしても耐え切れないものだった。
　カップル達と同様、颯も吹雪ではるか彼方にぶっ飛んだ。　　