夏だ！　海だ！　大雪だ？！｜リアクション

夏だ！　海だ！　大雪だ？！

　凄まじい吹雪は、凪の水着のスカートをひらひらどころではなくはためかせる。
　咄嗟に零が後ろを押さえ、凪も必死に前を押さえる。
　そう、スカートがめくれたその中は。
　決して見せてはいけない聖域なのだ。
　吹雪が凄まじかったおかげで、誰の目にも留まらなかったと信じたい。
　そうでなければ、白い浜辺が血の海に染まった事だろう――　主に男性陣の鼻血で。
「………青い……海辺が……危ないぞ……♪」
　冬樹闇は、こんな吹雪の中を歌いながら現れた。
　けれどその声は酷く小声で、仲良しの零でなければ聞き取れなかっただろう。
「闇が近くにおるのか？」
　零が気づき、凪を連れて吹雪の中歌を辿る。
　小声で、決して通るとは言いがたい声は、けれど零の耳には不思議とよく響く。
「おお、やはり闇じゃの。お主もこの浜辺に来ておったのか」
　零と凪と合流し、頷く闇。
「……初めまして……」
　闇とは初対面の凪が、恐る恐る挨拶をする。
　その少しぼんやりとした雰囲気といい、言葉をうまく発せない所といい、凪と闇は兄妹のように似通っていた。
「二人とも……うちが……守る……」
　寒さに震える零と凪に、闇はこくりと頷く。
　……シャンシャンシャンシャン……
　手にお札を掲げ神秘的な音を響かせて、闇が舞う。
　吹雪の中、軽やかに。
　美しく幻想的なそれは、闇のろっこんを発動させるに十分なものだった。
　舞いの力を得たお札を、闇は雪の降り積もる地面に設置する。
　その瞬間、闇の周囲を結界が包み込む。
　亀の甲羅のようにまあるいそれは、吹雪を弾き、闇はもちろんの事、凪と零もきっちりと守りこむ。
「この中……ほっとする……」
「流石だのう」
　闇の手腕に感嘆の溜息を漏らす二人。
　けれど吹雪が消えても、寒さがなくなるわけではない。
　どんよりとした雪雲が真夏の日差しを遮っているのだから。
「二人とももっとくっつが良いぞ」
　零が凪と闇をぐぐっとくっつける。
　もちろん、零も一緒にくっついている。
「……抱き……合う……暖かい……」
　三人でおしくら饅頭のような感じになって、さっきよりずっと暖かくなった。
「……たこやき……海の家で……買った……食べる……？」
　ふと思い出し、闇がたこ焼きを差し出す。
　もきゅもきゅ。
　二人で食べるカキ氷も美味しかったけれど、三人で食べるたこ焼きは、もっと美味しかった。　　