夏だ！　海だ！　大雪だ？！｜リアクション

夏だ！　海だ！　大雪だ？！

「おお、せにょりーた！　キミの嘆きが痛いほど伝わってくるよ！」
　全てを見ていた信彦は、両手を広げて麗子にアピール。
　猛吹雪の中、涙に暮れる麗子が虚ろな瞳で信彦を見る。
「俺はね、君の為にこの猛吹雪を抜けてきたんだ。君だけの為に！」
　水色のカラーコンタクト、きらりっ☆
　信彦は涙にくれる美女がいると聞きつけ、単身努力と根性と本能の美女センサーでこの場までたどり着いたのだ。
「わたしだけの為にですって？　ふざけないで」
「いいや、ふざけてなんかいないっ。キミの嘆きと悲しみが俺という救世主を呼び寄せたのさ。その証拠に、この猛吹雪すら、俺達を阻む事はできなかった！」
　ババンっと両手を広げて、信彦はくるりとその場で回ってみせる。
　視界の遮られる猛吹雪すら、ものともしなかったのは本当だ。
「キミのような女性がこんなにも嘆き悲しむその理由、この俺に話してみないか？」
　きらきらきらっ☆
　白い歯が輝いた。
　麗子はちょっと照れたようにうつむくと、ポツリと呟いた。
「失恋、したのよ……」
「おお、なんと言う事だ！　キミのように素敵なレディを振ってしまうなんて、相手は勿体ないことをしたものだね！」
「本当にそう思う？」
「本当だとも！　キミこそこの世で一番美しい俺の女神だよ」
「そんな、女神だなんて……」
「失恋は誰にとっても辛く苦しいもの。でも、キミには人を愛する勇気があるんだ。必ず苦しみを乗り越える勇気があるはずさっ！」
「勇気、もう一度、持ってみようかしら……」
　熱い熱い信彦の説得に、ぐぐっと心動かされる麗子。
　凍えた心が解きほぐれるように、周囲の吹雪が収まり始める。
「わたし、あなたとなら……」
　熱い目線を信彦に送る麗子。
　その時だ。
「あ、彦にゃんまたナンパしてるの？」
　ベガだ。
　弱まった吹雪で開けた視界に、両手にジュースを持ったベガがあっさりと信彦を見つけた。
　カッチーンと凍りつく麗子。
「むぅ、駄目だよ？　ほらー。いろんな人と遊んでないで、あたしといこいこ、だーりんっ☆」
「もちろんだよはにー。ナンパなんて誤解さ。キミが一番素敵なんだから」
「もう、彦にゃんたらいっつもずるーい。でも大好き☆」
「あはは、こいつぅ♪」
　きゃはは、うふふ。
　麗子の目の前で繰り広げられるラブラブ劇場。
「……新しい恋……男なんて……」
　ぶつぶつとやばい表情で呟く麗子。
　でもベガと信彦はラブラブすぎて何も気づかない。
　信彦にぎゅうっと抱きついて甘えるベガ。
　世界がきらきらと輝いていく。　
「さぁ、この海辺を駆けていこう！　世界は僕達のためにあるんだから！」
「きゃあ素敵☆」
　信彦はひょいっとベガをお姫様抱っこして、きらきらと輝く銀世界をスキップしながら去ってゆく。
　あまりの衝撃に麗子は吹雪で撃墜する事すら出来ない。
　その悲しみと怒りは、信彦とベガが視界から消え去った瞬間に大爆発した。
「男なんかああああああっーーーーーーーーっ！！！」
　どごおおおおおおんっ！
　今までの比ではない爆音すら響かせて、麗子を中心に猛吹雪が再発！
　見る見るうちに積もる雪を、溶かせるものは果たしているのか？！