夏だ！　海だ！　大雪だ？！｜リアクション

夏だ！　海だ！　大雪だ？！

「ちょっと、そこのあなた！　あなたよあなた」
　咲は大暴れしている麗子を見つけ、叫ぶ。
　やっと見つけたのだ。
　麗子が髪を振り乱して振り返った。
　その形相はまさに、鬼。
（や、やけに気迫のある人ね。でもここで引く咲じゃないわ。カップルを粛清する事に文句はないけど、やりすぎは止めないと！）
　表情はクールなまま、咲はこくりと喉を鳴らす。
「ここは皆が楽しむ浜辺よ。吹雪を撒き散らすなら、雪山が適切でしょう。風紀を乱すことはこの風紀委員の咲が許しません！」
「風紀を乱しているのはどっちよ！　周り中のバカップルを見てごらんなさいっ！」
　咲の説得に、麗子がビシッと周囲を指差す。
　あっちでいちゃいちゃ。
　こっちでいちゃいちゃ。
　猛吹雪の中でも冷める事のない熱々カップル達。
　咲のこめかみがぴくっと引きつった。
「どう？　これでも間違っているというの？　いいえ、間違っているはずがないわ！」
「でも、無関係の人たちまで巻き込んでいるわ。カップルだけにするべきよっ」
　他の人達が聞いていたらちょっとまってな発言を、咲は堂々と叫ぶ。
「仕方がないでしょう。カップル達が多すぎるのよ！　ほら、あそこのカップルを見なさいっ。あなたはあれでも許せるのっ？！」
　ビシッと再びカップルを指差す麗子。
　そこには、バスタオルに包まって明らかに怪しい動きをしている荒太郎とかなえが！
　咲の神経が怒髪点をぶち越えた。
「……風紀を乱す悪しき者たちには、容赦しないわ。ろっこんビーーーームッ！」
　麗子並にブチ切れた咲が、必殺技『メガエラ・フォース』発動！
　振りかざした拳から迸る黒いビームは、咲の負の感情の塊だ。
　荒太郎とかなえはおろか、諸悪の根源ともいえるラブラブカップル達が悲鳴をあげて軒並み吹っ飛んでいく。
「この、大空にっ」
「こーたんっ！」
　咄嗟にろっこんを発動させる荒太郎。
　偶然逃げ遅れたかもめが側で羽ばたいたお陰だ。
　吹っ飛びかけるバスタオルを根性でねじ伏せて、荒太郎はかなえを抱きしめる。
　全年齢の壁が許しても、かなえのあられもない姿を他人に見せるなんて、荒太郎が決して許さない！
　抱きしめあって大空を飛んでいく荒太郎とかなえ。
　二人に麗子の吹雪の追撃が飛ぶが届かない。
「ちっ、逃したか」
「口惜しいわ」
　咲と麗子、ぎりりっと歯軋り。
　そしてふと、目があった。
「あなたとは気が合いそうね」
　麗子がふふふっと微笑む。
「ええ、咲もそう思うわ」
　麗子ににっこりと微笑む咲。
　そしておもむろに麗子の手を取り、
「今から私達は友達です」
　と言い切った。
　潔癖症でリア充嫌いな二人は、初対面でも通じ合うものが合ったらしい。
　ふふふと微笑みあう二人。
　これで吹雪も収まるか、と思いきや。
「咲先輩、こちらにいらしたんですね。大分情報が集まりましたよ」
　極夜が吹雪の中、駆け寄ってくる。
　麗子のにこやかだった顔が、能面のように凍りついた。
「リア充だったのね……」　
　ぼそりと呟く声は、氷点下。
「えっ、えっ？　何のこと？　えっと？！」
　全く身に覚えのない咲はしどろもどろ。
「咲先輩、その方は？　とても美しい方ですね」
　極夜は場の空気に全く気づかず、笑顔で麗子に話しかける。
「美しい、ですって……？」
「えぇ。咲先輩のご友人にこんな素敵な方がいらしたんですね」
「彼女の友人にまで手を出そうというの……」
「え、えと、あの、哀坂さん、これには事情が」
　咲が必死に説明しようとするが、もう色々間に合わない。
「貴方様のように美しい方と知り合えて光栄です。これからも、どうぞよろしくお願いします」
　礼儀正しく極上の笑顔を麗子に向ける極夜。
　とどめだった。
「……こんな、こんなっ、素晴らしいイケメン彼氏がいるくせにっ、友達だなんてよくもーーーーーーーーっつ！」
　泣きながら麗子が放った吹雪は、今世紀最大！
　咲と極夜を仲良く海の家まで吹っ飛ばした。　　