カラスで腰砕け｜リアクション

カラスで腰砕け

「馬刺しとは馬の刺身のことだ。身を刺すから刺身というのだ。馬を刺したら馬刺しになるのだ！！」
　ピッツァは唐突に飛び上がった。あまりに唐突だったので、みんな虚を突かれてしまった。
「コケーッ！！」
　絶叫しながら轟、時子、天吏の三人の顔を翼でひっぱたいた。
「きゃあ！」
「うわっ、目が！」
　ピッツァは奇声を上げながら厩舎の方に向かった。しかし、遠くからでもがっちり戸締りされているのが見えたので、作戦を変えた。こうなれば、やぶれかぶれだ。
「おーい、そんな滅茶苦茶な理屈があるか！」
　轟の制止を振り切ってピッツァは飛んだ。

　馬は既に厩舎に入ってしまった。しかし、一つだけ手がある。人間どもの建物を荒らし回って、誰かを厩舎に追い込めば、そこに逃げ込むのではないか？　その時に、厩舎の鍵を開ける可能性はあるのではないか。捨身の作戦だ。しかしそういうことであれば、まだチャンスはあるのだ。
　ピッツァは、人目をはばかって低空飛行で管理棟に近づき、裏手に回った。大体裏口や隅っこの窓は防備が緩いものだ。そこから入り込んでちょっと脅かせば──。
　しかし、一階の窓や裏口はどこも閉め切られているようだった。ピッツァは頭を働かせた。
　そうだ、厩舎に追い込みたいのだから、上階から侵入して下階へ向けて追い散らすのが一番良い。そうすれば、誰かが厩舎に逃げ込もうとして鍵を開けるかもしれない。
　ピッツァは、飛び上った。しめた！　上階の窓が開いている。
　ピッツァは躊躇いなく飛び込んだ。がらんとして、使われていない部屋のようだった。途端、何かが視界の隅から素早く飛び上がり、開いていた窓を閉めた。
　ピッツァは振り向いた。
　そこで、ピッツァの思考は、停止した。

　何故だろう。
　分からない。
　何故、ここにジャガーがいるのだろう。ネコジマジャガーだろうか？　聞いたことがない。ここはホースクラブだと聞いていたが、ジャガークラブの側面もあるのだろうか？　そもそも何故、ジャガーがあんな風に窓を閉めることが出来たのだろう。まるで、人間みたいに。
　何で俺は、ここに来てしまったのだろう？
　とまれ、ピッツァに逃げ場はなかった。
「ぐるぁっ！」
　ジャガーの巨大な顎が、がぱっと開いた。

　地獄の、穴。

　ピッツァは悟った。ここが、俺の墓場だ。儚い、半生だった。墓があるのに、はかない──こんなクソみたいなダジャレが、俺の最期の言葉──。

　猛獣と化したレナの顎が、ばくんと閉じられた。

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