Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

　お金たちの反乱はテオの忠告後も起こり得る。
　そろそろ店じまいを、という空気が漂う表参道商店街を御剣刀が歩いているとテオの声が聞こえてきた。
　鹿嶋洋美は橋の近く、淡島直行は帰宅途中……居候先に帰ろうとしていた時だった。
　皆、同じようにちょっと傲慢気味な猫の声を耳にした。
「また神魂かよ、いい加減にしろ！」
　刀はひとつため息を付いて「っと、俺の財布は大丈夫だよな？」と中身を確認した。確認してしまった。
「中を覗いたら一万円札に羽根が生えて飛んでった!?」
　驚きのあまりの実況。
　俺の馬鹿馬鹿と頭をかきむしってから「待てよ！」刀は奴らを追いかけるのであった。

　洋美も刀と同じ口。
　大丈夫かなぁと自分の財布を開けてしまったそういうタイプ。
『ヘヘ、ありがとうよ、これで俺様も自由の身だぜ』と言わんばかりに千円札が財布から飛び出して、洋美の頬をペチペチしてから空高く舞い上がった。
　洋美ははたかれた頬に手をやる。
「……お、金？」
　あまりの衝撃に放心してしまう。
　が、わざわざ千円札は舞い戻ってきて洋美の目の前で小躍りする。
「あぁ～、私の今日の食費！」
　放心する暇さえくれない。
　洋美が気を確かに持ったところを確認して、千円札はひゅいと軽やかに飛び去った。
「何でとんでっちゃうの～？」
　洋美は急いで追いかけるしかないのである。

「……テオ。そう言う事はもう少し早く言って欲しかった、な」
　ポツンと佇み、そう漏らしたのは直行。彼はすでに飛んでいった後である。
「今月のバイト代が全部飛んで行ったよ……あははは……」
　かすれる笑い声が夜空に消えていく。
　居候先にじーちゃんばーちゃんちに食費と光熱費はいれなきゃな。
　あ、今月は新作の三国志ゲームが出るんだよな。
　従妹におみやげくらい買ってやりたいな。
　そんな思いがまるで走馬灯のように頭をよぎり、それらも羽が生えたかのように夜空に――
「まぁ過ぎたことは仕方ない」
　消えない。
　直行はまだ希望は捨てなかった。
「今は前向きに回収することを考えるべきだな」
　しっかりと前を見据え、羽を得た金を追いかける。
　こうして金が飛んでゆき、もちろんこれ以外の被害者もちらほらと。
　旧市街の空をお札が飛ぶのであった。